はじめに
日本の宿泊業界は深刻な人手不足に直面しています。この課題に対応するため、2019年4月に特定技能制度が創設されました。本記事では、宿泊分野における特定技能制度について、外国人材と雇用主双方に向けて詳細な情報を提供します。
宿泊業界の人手不足は年々深刻化しており、2024年現在、多くのホテルや旅館が人材確保に苦心しています。特定技能制度は、この状況を改善するための重要な施策の一つとなっており、外国人材受入れを通じて労働力を補完することが期待されています。
特定技能の基本情報
特定技能制度には、1号と2号の二つの在留資格があります 。特定技能1号は最長5年の在留期間が認められ、家族の帯同は原則として認められません。特定技能1号を取得するためには、漁業技能試験と日本語試験に合格する必要があります。また、特定技能2号を取得するためには、少なくとも2年間の実務経験が必要です。一方、特定技能2号は在留期間の更新に制限がなく、家族の帯同も可能です。
宿泊業界の現状
観光目的の訪日外国人客受け入れが再開し、ビジネス目的などを含めた2023年の訪日客数は年間2千万人超のペースで推移しています。国内旅行客の回復に加え、インバウンド増も重なり、旅館・ホテル業界の業績回復に強い追い風が吹いており、今後の動向は「人手不足」による稼働率低下の回避が焦点となります。
帝国データバンクの調査では、旅館・ホテル業界の人手不足割合は正規・非正規人材共に 7 割を超え、フロントスタッフや配膳、清掃などの各業務で人手不足が深刻化している一方で、コロナ禍で他業種へ移った従業員は「賃金など条件が折り合わず、宿泊業への戻りは鈍い」(人材派遣会社)など、フル稼働に必要な人材の確保が難航しています。足元では人手不足で予約の制限や客室稼働の抑制といった措置を迫られた企業も一部で出始めるなか、インバウンドの受け入れ態勢が整わず、需要の取りこぼしなどで業績回復ペースが想定より伸び悩む可能性があるため、外国人材の活用が求められます。外国人を雇用することで、宿泊業界の人手不足を解消し、業績回復を図ることが期待されています。
特定技能「宿泊」の受入状況
特定技能「宿泊」は2019年8月に初めて受け入れが発生しましたが、その後新型コロナウィルスの影響で受け入れ数は低調に推移。2020年9月以降は回復傾向にあり、今後もコロナウィルスの状況が改善されれば、受け入れ数も増加する見込みです 。
技能外国人を受け入れるためには、許可の取得、協議会への参加、e-Gov電子申請の利用などの手続きが必要です。
国籍別のマッチング状況 | |
国名 | 人数 |
ベトナム | 20名 |
ミャンマー | 24名 |
インドネシア | 17名 |
ネパール | 14名 |
韓国 | 7名 |
中国 | 6名 |
台湾 | 5名 |
モンゴル、フィリピン | 各3名 |
香港 | 2名 |
チリ、フランス、タイ、スウェーデン、スリランカ | 各1名 |
ブロック別のマッチング状況 | ||
ブロック | 人数 | 主な国籍(上位2カ国) |
北海道 | 8名 | ベトナム、ミャンマー |
東北 | 5名 | ミャンマー、ベトナム |
北陸信越 | 18名 | ネパール、ベトナム |
関東 | 20名 | ベトナム、インドネシア |
中部 | 17名 | インドネシア、ミャンマー |
近畿 | 32名 | ベトナム、ミャンマー |
中国 | 3名 | インドネシア、モンゴル |
四国 | 4名 | ネパール、ベトナム |
九州 | 2名 | ベトナム、韓国 |
沖縄 | 6名 | ミャンマー、韓国 |
国籍別では、ベトナム/ミャンマーが全体の約半数を占めており、地域別では近畿や関東などの都市部を中心に受け入れが進んでいる状況です。今後、特定技能に関する理解が各国や宿泊施設側で進んでいく中で、様々な国籍や地域での受け入れも増えていくことが期待されます 。
特定技能取得のプロセス(外国人材向け)
観光庁によると、特定技能1号「宿泊」の資格取得要件は以下2点になります 。
一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材であること
ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力を有すること
特定技能制度において、外国人労働者が宿泊業で働くためには、試験情報が非常に重要です。試験情報を通じて、必要な技能や知識を確認し、資格取得のための準備を行うことができます。
この条件を満たすには、以下①または②のどちらかを満たすことで、特定技能1号「宿泊」を取得することができます 。
①宿泊業技能測定試験と日本語試験(日本語能力試験または国際交流基金日本語基礎テスト)に合格する | 宿泊業技能測定試験とは、宿泊業(日本の旅館・ホテル)で必要とされる技能や知識に関して、外国人材のレベルを確認するものです。出題は下記5つのカテゴリです 。 ・フロント業務 ・広報・企画業務 ・接客業務 ・レストランサービス業務 ・安全衛生その他基礎知識 日本語試験 日本語能力試験N4レベル以上、または国際交流基金日本語基礎テストに合格すること |
②宿泊分野の技能実習から移行する | 技能実習2号から特定技能1号への移行を希望する場合、評価試験が免除されることがあります。ただし、日本語能力要件は満たす必要があります。 |
※特定技能評価試験は、日本国内のほか国外でも開催されています。ただし特定技能「宿泊」では、国外試験は2019年10月にミャンマーにおいて一度実施されたのみで、昨今の政治情勢から、次回の開催予定は未定です。今後、実施国は増える可能性があります 。
特定技能外国人の採用と受け入れ(雇用主向け)
特定技能1号外国人を雇用できる業種は、宿泊業を含む12の特定産業分野に限定されています。雇用主は以下の点に注意する必要があります。
適切な賃金と労働条件の提供
外国人材の生活支援
在留管理に関する法的義務の遵守
宿泊業における特定技能外国人の雇用に関する注意点(業務内容、雇用期間、雇用形態の制限、宿泊在留資格に関する特定の要件と制限)
登録支援機関を活用することで、これらの義務を効率的に果たすことができます。また、宿泊分野特定技能協議会に加入することで、業界内のネットワークを構築し、有用な情報を得ることができます。
宿泊分野における特定技能外国人の役割
特定技能外国人は、宿泊業界に新たな価値をもたらします。主な業務内容には、フロント業務、客室清掃、レストランサービスなどがあります。多言語対応や異文化理解により、インバウンド需要への対応力が向上することが期待されています。
キャリアパスとしては、特定技能1号から2号への移行、さらには永住権取得まで視野に入れることができます。日本の宿泊業界にとって、外国人材はますます重要な存在となっています。
特定技能2号への移行と将来展望
特定技能2号は、より高度な技能を持つ人材を対象としています。宿泊分野における特定技能2号の導入時期は現時点で未定ですが、将来的には適用される可能性があります。
特定技能2号への移行には、高度な技能と日本語能力が求められます。永住権取得への道筋としても重要な位置づけとなる可能性があります。
まとめ
特定技能宿泊分野は、外国人材と日本の宿泊業界双方にとって大きな機会を提供しています。主要ポイントを以下にまとめます。
特定技能1号で最長5年の在留が可能
宿泊業に関する幅広い業務に従事可能
技能と日本語能力の向上が重要
雇用主は適切な受け入れ体制の整備が必要
今後、制度のさらなる改善や拡大が期待されます。外国人材の活用は、日本の宿泊業界の発展に大きく貢献するでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 特定技能の宿泊の合格率は?
A1: 合格率は試験により異なりますが、平均して50-60%程度です。最新の詳細な統計は宿泊業技能試験センターで確認できます。
Q2: 特定技能2号 宿泊 いつから?
A2: 現時点で宿泊分野における特定技能2号の導入時期は未定です。今後の法改正や政策変更に注目する必要があります。
Q3: 特定技能の宿泊分野の受入れ人数は何人ですか?
A3: 受入れ人数は年々増加傾向にあります。2024年7月現在、約5,000人の特定技能外国人が宿泊分野で就労しています。
Q4: 特定技能ビザの宿泊分野の必要書類は?
A4: 主な必要書類には以下があります。
パスポート
特定技能評価試験合格証明書
日本語能力証明書
雇用契約書
技能実習修了証明書(該当者のみ)