特定技能「飲食料品製造業」とは?
特定技能とは?
特定技能とは、2019年4月より導入された新しい在留資格です。これまで日本国政府は外国人の単純労働を認めないという姿勢を取ってきましたが、少子高齢化に伴い人手不足が深刻化したため、下記12分野に限り、外国人の就労が解禁されました。
<12分野のリンク>
2023年6月末時点では、173,089人が働いており、飲食料品製造業が53,282人で最多となっています。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があり、飲食料品製造業は特定技能1号と2号の両方で認められています(特定技能2号への追加は2023年6月9日に閣議決定)。特定技能1号を取得するには、後述する「技能水準」と「日本語能力水準」をクリアする必要があります。在留期間は最大5年までとなっており、原則1年ごとの更新が必要ですが、「特定技能2号」は在留資格を何度でも更新可能(無期限の滞在可能)で、家族の帯同も認められます。
飲食料品製造業の現状
飲食料品製造業は急速に進む少子高齢化を背景に、人手不足が深刻になっています。
農林水産省によると、2013年以降飲食料品製造業の有効求人倍率は右肩上がりに伸びており、全産業平均より高い水準を記録しています。欠員率(企業側が求める労働需要の不足分を意味する)を見ても、飲食料品製造業の欠員率は全産業平均や全製造業平均より高く、深刻な人手不足が問題となっています。
飲食料品製造業における人手不足の一因は、その業務の特性にあります。飲食料品製造業は飲食物を扱っているため、賞味期限や食品衛生の観点から海外への工場移転などが難しい事情があります。
また、飲食料品製造業においては、ある程度目視や手作業に頼らざるを得ない工程もあり機械化の取組にも限界があること、2018年の食品衛生法改正により、2020年6月までに全ての飲食料品製造業者にHACCPに沿った衛生管理の制度化への対応が求められることから、最適な人材を確保することが難しいという理由もあります。
一方で、製造業における外国人労働は他産業に比べて進んでおり、全産業の外国人労働者約182万人の内、製造業は約49万人(全産業の約27%)、飲食料品製造業は約14.8万人(全産業の約8%)を記録しています。(2022年10月末時点)
ただし、飲食料品製造業に従事する外国人の在留資格を見ると、永住者を除けば「技能実習」と「資格外活動(留学生や家族帯同者など)」が大半を占めています。しかし、最近では、外国人留学生による就業時間上限を超えた勤務や卒業後に就労許可なく不法就労するという問題が注目され、政府は「留学」の在留資格を厳格化しました。そのため、今後は特定技能の活用が増えてくると期待されています。
特定技能「飲食料品製造業」の受入人数
特定技能「飲食料品製造業」では、今後5年間で最大87,200人を受け入れる見込みで、特定技能12分野の中では最大の受け入れ人数になります。
分野 | 1.人手不足状況 | 2.人材基準 | 3.その他重要事項 | |||
受入れ見込数(5年間の最大値) | 技能試験 | 日本語試験 | 従事する業務 | 雇用形態 | ||
厚生労働省 | 介護 | 50,900人 | 介護技能評価試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験(上記に加えて)介護日本語評価試験 | ・身体介護等(利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助等)のほかに、これに付随する支援業務( レクリエーションの実施、機能訓練の補助等)(注)訪問系サービスは対象外 | 直接 |
ビルクリーニング | 20,000人 | ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・建築物内部の清 (1 業務区分) | 直接 | |
経産省 | 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造 | 49,750人 | 製造分野特定技師1号評価試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・機械金属加工・電気電子機器組み立て・金属表面処置 (3 業務区分) | 直接 |
国交省 | 建設 | 34,000人 | 建設分野特定技師1号評価試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・土木・建築・ライフライン・設備(3 業務区分) | 直接 |
造船・舶用工業 | 11,000人 | 造船・舶用工業分野特定技能1号試験等 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・溶接 ・仕上げ・塗装 ・機械加工・鉄鋼 ・電気機器組み立て (6 業務区分) | 直接 | |
自動車整備 | 6,500人 | 自動車整備分野特定技能評価試験等 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・自動車の日常点検整備、定期点検整備、特定整備、特定整備に付随する業務 (1 業務区分) | 直接 | |
航空 | 1,300人 | 特定技能評価試験(航空分野・空港グランドハンドリング、空港機整備) | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・空港グランドハンドリング(地上走行支援業務、手荷物・貨物取扱業務等)・航空機整備(機体。装備品等の整備業務等) (2 業務区分) | 直接 | |
宿泊 | 11,200人 | 宿泊業技能測定試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・宿泊施設におけるフロント、企画、広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービス提供(1 業務区分) | 直接 | |
農水省 | 農業 | 36,500人 | 農業技能測定試験(耕種農業全般、畜産農業全般) | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・耕種農業全般(栽培管理、農産物の集出荷・選別等)・畜産農業全般(栽培管理、農産物の集出荷・選別等) (2 業務区分) | 直接 |
漁業 | 6,300人 | 漁業技能測定試験(漁業、養殖業) | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・漁業(漁具の制作・補修、水産動植物の探索、漁具、漁労機械の操作、水産動物の採捕、漁獲物の処理、保護、安全衛生の確保等)・養殖業(養殖資材の制作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収穫・処理、安全衛生の確保等) (2 業務区分) | 直接 | |
飲食料品製造業 | 87,200人 | 飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・飲食料品製造業全般(飲食料品(酒類を除く)の製造・加工、安全衛生) (1 業務区分) | 直接 | |
外食業 | 30,500人 | 外食業特定技能1号技能測定試験 | 国際交流基金日本語基礎テスト又は、日本語能力試験 | ・外食業全般(飲食物調理、接客、店舗管理) (1 業務区分) | 直接 |
特定技能「飲食料品製造業」の受入状況
特定技能「飲食料品製造業」は2019年に初めて受け入れが発生して以降、右肩上がりに受け入れ数を伸ばしてきました。2023年4月末時点で51,915人を記録しており、特定技能12分野で最多になります。
特定技能の多くは技能実習2号修了者からの移行が中心で、飲食料品製造業分野における技能実習2号修了者からの移行は37,709人で、全体の72%を占めます。
国籍別では、ベトナムが37,159人で最多を占めています。
特定技能と技能実習の違い
特定技能と混同されやすいものとして、技能実習があります。しかし、両者は設立背景や雇用ルールなどで大きく異なるため、その違いを理解しておく必要があります。
主な違いは以下の通りです。
技能実習が国際貢献や技能移転を目的としている一方、特定技能は日本の人手不足解消が目的です。そのため、特定技能は相応程度の知識又は経験が求められることを前提とし、資格取得要件は厳しく、在留期間も長く、転職も可能という点が主な違いです。
また、技能実習制度は制度目的(=国際貢献)と運用実態(=労働力の確保)の乖離が指摘され、2022年11月に政府の有識者会議が設置され、技能実習制度の廃止や新制度の創設が進められてきました。2023年4月に発表された中間報告では、技能実習にかわる新制度は特定技能への移行を念頭に置いたうえで検討を進めていき、2023年秋に最終報告をまとめ、正式な変更は2024年以降の予定となっております。
技能実習 | 特定技能 | |
目的 | 国際貢献、技能移転 | 日本の人手不足解消 |
求められる技能水準 | なし(未経験でも可) | 相応程度の知識又は経験が必要 |
在留資格 | 「技能実習」 | 「特定技能」 |
在留期間 | 1号:1年以内2号:2年以内3号:2年以内(合計最大5年) | 特定技能1号:最大5年特定技能2号:制限なし |
資格取得要件 | なし(介護のみN4レベルの日本語能力要件あり) | 技能水準・日本語能力水準の試験等の実施(技能実習2号を良好に修了した者は試験等を免除) |
受け入れ可能業種 | 85職種156作業 | 14業種 |
転職 | 不可 | 可能(異業種に転職する場合、在留資格の変更が必要) |
特定技能「飲食料品製造業」の資格取得の要件とは?
資格取得の要件
農林水産省によると、特定技能1号「飲食料品製造業」の人材要件は以下の通りです。
飲食料品の製造工程でHACCPに沿った衛生管理ができる人材(主に下記技能の有する人材)
- 主な食中毒菌や異物混入に関する基本的な知識・技能
- 食品等を衛生的に取り扱う基本的な知識・技能
- 施設設備の整備と衛生管理に関する基本的な知識・技能
この条件を満たすには、以下1または2のどちらかを満たすことで、特定技能1号「飲食料品製造業」を取得することができます。
- 飲食料品製造業技能測定試験と日本語試験(日本語能力試験または国際交流基金日本語基礎テスト)に合格する
- 飲食料品製造業分野の技能実習2号から移行する
技能測定試験に合格する
飲食料品製造業技能測定試験とは、「食品等を衛生的に取り扱う基本的な知識を有しており、飲食料品の製造・加工作業について、特段の育成・訓練を受けることなく、直ちにHACCPに沿った衛生管理に対応できる程度の業務に従事できること」を確認するためのものです。試験は学科と実技に分かれており、出題項目は以下の5つです。
「食品安全・品質管理の基本的な知識」
「一般衛生管理の基礎」
「製造工程管理の基礎」
「HACCPによる衛生管理」
「労働安全衛生に関する知識」
特定技能測定試験は、日本国内のほか海外でも行われており、すでにフィリピンやインドネシアで実施されています。
日本語試験に合格する
日本での就業や生活が可能な日本語能力があることを証明するため、日本語の試験で一定以上の成績を修める必要があります。具体的には、日本語能力試験のN4以上、もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格する必要があります。
「日本語能力試験」
年2回実施される「日本語能力試験」で、「N4」以上の成績を取る必要があります。試験の評価はN1からN5まであり、N1がもっとも高難度です。N4は、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」レベルです。
「国際交流基金日本語基礎テスト」
日本の生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定するテストです。「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定します。
試験免除のケース(技能実習2号)
特定技能「飲食料品製造業」を取得するもうひとつは、「技能実習2号から移行する」という方法です。
「技能実習2号」とは、1993年に導入された「技能実習」ならびに「研修」制度のことです。開発途上国の人材が日本で学んだ技能や技術を本国の経済発展に生かす目的で設けられました。しかし技能実習生は技能の習得が狙いのため、一定期間日本で働いたあとは、必ず自国へ帰らなければなりません。
ところが今回、新たに「特定技能」の制度が整備されたことにより、「技能実習」から「特定技能」への移行が可能になり、日本で在留し続けることもできるようになりました。
技能実習から特定技能への移行に必要とされる主な要件は以下の通りです。
- 技能実習2号を良好に修了
- 技能実習での職種/作業内容と、特定技能1号の職種が一致
飲食料品製造業に関わる10職種で技能実習2号修了した場合(すでに技能実習3号の方も含む)、特定技能の試験が免除されます。技能実習1号については、試験に合格するか技能実習2号を修了する必要があります。
また、惣菜製造職種における技能実習2号修了者も試験が免除されます。
詳細は以下の通りです。
申請書類
- 飲食料品製造業技能測定試験の合格証明書の写し
- 日本語能力を証するものとして次のいずれかの写し
①国際交流基金日本語基礎テストの合格証明書
②日本語能力試験(N4以上)の合格証明書 - 受け入れ先企業が食品産業特定技能協議会の構成員であることの証明書
特定技能「飲食料品製造業」に許される業務・雇用形態・報酬について
業務内容
農林水産省によると、「飲食料品製造業全般」が認められています。
具体的には、以下の業務になります。
- 飲食料品(酒類を除く)の製造・加工、安全衛生
飲食料品(酒類を除く)の製造・加工とは、 原料の処理、加熱、殺菌、成形、乾燥等の一連の生産行為等をいう。(単なる選別、包装(梱包)の作業は製造・加工にはあたらない) - 付随的な関連業務(専ら関連業務に従事することは認められない):
関連業務の一例) - 原料の調達、受入れ
- 製品の納品
- 清掃
- 事務所の管理の作業
雇用形態と報酬
特定技能「飲食料品製造業」では、直接雇用のみ認められ、派遣形態は認められません。
雇用期間は「特定技能1号」の場合は最大5年間で、報酬は「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」が求められます。
特定技能「飲食料品製造業」を採用するには?
特定所属機関(受入れ企業)の要件
特定技能外国人を雇用する際、受け入れ企業側には以下2点の要件が求められます。
- 農林水産省が定めた「食品産業特定技能協議会」に加入すること
特定技能外国人を雇用するには、受け入れ企業はそれぞれの分野に応じた協議会(飲食料品製造業の場合は「食品産業特定技能協議会」)へ加入しなければなりません。入会していないと外国人の受け入れが認められないため、期限となる外国人の入国後4ヶ月以内には必ず手続きを行いましょう。 - 海外人材に対して適切な支援を行うこと
特定技能制度を活用して海外人材を雇用するには、定められた支援を適切に行わなければいけません。受け入れ企業でサポートしきれない場合は、登録支援機関に支援業務を委託します。
特定技能を採用する流れ
Step1:人材募集・面接
特定技能を採用するには、以下の2つの方法があります。
1. 国内から採用する場合
候補者がすでに特定技能で働いている、又は技能実習を修了見込みの方になります。この場合、自社で人材募集をすることも可能ですが、登録支援機関や国内人材紹介会社に人材紹介を依頼するのが一般的です。
2. 海外から採用する場合
候補者はすでに特定技能の資格要件を満たしている、又は今後技能試験や日本語試験を受験予定の方になります。この場合、海外送り出し機関に人材募集を依頼するのが一般的です。
どちらの場合でも、候補者情報を基に書類審査を行い、オンライン又は対面で面接を実施し、採用を決めていく流れになります。
Step2:雇用契約を結ぶ
内定者が決まり次第、法律で定められた基準(業務内容/報酬/労働時間など)に留意し、雇用契約を締結します。
Step3:支援計画を策定する
特定技能外国人を雇用する場合、外国人が日本で安定的に働くことができるよう支援を行わなければいけません。在留資格申請時にはこの支援をどの様に行うかを示した支援計画書を提出する必要があります。支援を自社で行うことが難しい場合、登録支援機関に委託し、受け入れ機関に代わって支援計画の策定・実施をしてもらうことが出来ます。
法律で定められている支援内容は以下の通りです。
- 事前ガイダンス
労働条件/業務内容/入国手続き等について、オンライン又は対面で説明 - 出入国する際の送迎
入国時に空港から事務所又は住居までの送迎
帰国時に空港までの送迎 - 住居確保・生活に必要な契約支援
賃貸契約、銀行口座の開設、契約電話の契約などを案内/支援する - 生活オリエンテーション
日本で安定して働くことができるよう、日本のルールやマナー、公共交通機関の利用方法などの説明 - 公的手続への同行
必要に応じて、住居地/社会保障/税金の手続きの同行、書類作成の支援 - 日本語学習機会の提供
日本語教室の入学案内、日本語学習教材の情報提供など - 相談・苦情への対応
職場や生活上の相談/苦情に対する対応 - 日本人との交流促進
地域イベント(お祭りや行事など)の案内など - 転職支援(人員整理などの整理)
雇用主都合による雇用契約解除の場合は新たな就職先を探す手伝いや必要な行政手続きの情報提供など - 定期的な面談・行政機関への報告
支援責任者が外国人本人及びその上司と定期的に面談を実施し、労働基準法違反などあれば行政機関に報告
Step4:在留資格申請を行う
支援計画が策定できたら、必要書類を地方出入国在留管理局に申請します。申請が認められると証明書が交付されるため、その証明書を持って候補者本人がビザ申請を行います。在留資格申請の書類作成は、自社で行うことも出来ますが、行政書士に委託することも可能です。
採用費用の相場
特定技能の採用に伴う費用は以下の通りです。
費用項目 | 費用相場 | 備考 |
人材紹介手数料(国内人材紹介会社を利用する場合) | 年収の30~40% | |
人材紹介費(海外送り出し機関を利用する場合) | 給与1ヶ月分又は約30万円 | 送り出し国によっては、海外送り出し機関を経由して採用することが必須になっている |
生活支援費 | 登録支援機関に月額2~3万円/人 | |
特定技能の書類作成委託費 | 行政書士に10〜20万円。在留期間更新申請に毎年2~5万円程度発生 | |
健康診断費 | 約1万円 | |
渡航費用 | 10〜15万円 | 出身国により異なる |
送り出し国のルール
特定技能を海外から採用する場合、日本側の法律だけでなく、送り出し国のルールにも注意する必要があります。東南アジアの多くの国々では、その国が承認している送り出し機関を必ず通して採用することが義務付けられています。例えば、フィリピンではPOLOやPOEAという政府機関の承認を受けた上で、POEAが承認した現地の送り出し機関を通す必要があります。
これは、送り出し国側が海外で働く自国民の生命や安全を守るために設けられたルールです。送り出し機関を介さずに採用した場合、受け入れ企業だけでなく、候補者にも罰則が発生するため気をつける必要があります。