はじめに
建設業界における人材不足が深刻化する中、「特定技能」制度が注目を集めています。2019年4月に導入されたこの制度は、外国人材の受け入れを拡大し、日本の労働力不足解消を目指しています。本記事では、特に建設分野における特定技能制度について詳しく解説します。
特定技能「建設」とは
特定技能とは?
「特定技能」とは、2019年4月から導入された新しい在留資格を指します。これまで、日本政府は外国人に対する単純労働の受け入れを制限してきましたが、少子高齢化の進行に伴い、労働力不足が深刻化したため、以下の12分野において外国人の雇用が許可されることとなりました。
特定技能は、即戦力となる外国人材を受け入れるための在留資格です。建設分野では、特定技能1号と2号の両方が認められています。
「特定技能」には「特定技能1号」と「特定技能2号」という2つのバリエーションが存在し、建設業界では両方とも認められています。特定技能1号を取得するためには、特定の技能水準と日本語能力をクリアする必要があり、在留期間は最大5年までで、通常は1年ごとに更新が必要です。一方、「特定技能2号」は在留資格の更新に制約がなく、滞在期間も自由で、家族の同伴も認められています。
また、令和5年6月9日の閣議決定により、特定技能の在留資格に関する制度の運用方針(分野別運用方針)が変更され、特定技能2号の適用分野が拡大され、新たに9つの分野が特定技能2号の対象となりました。
建設業界の現状
2019年末、国土交通省が実施した「建設労働需給調査」によれば、型枠工、左官、とび工、鉄筋工、電工、配管工など、建設分野のすべての職種において人手不足が深刻であり、特に土木分野の型枠工における不足が著しいことが明らかになりました。この不足は、関東圏だけでなく、北海道や中国地方など再開発工事が盛んな地域でも顕著になっています。2015年と比較すると一部落ち着きは見られますが、業界の労働力供給に向けた充実策は依然として模索されており、人材不足の状況は改善されていないと言えます。
この人材不足の背後には、若手労働者の不足と建設業界における技術者の高齢化があると指摘されています。国土交通省によれば、令和3年末時点での建設業界の総就業者数は485万人であり、ピーク時である平成9年に比べて約29.2%も減少しています。このため、工事の案件が存在しても適切な人材が不足し、監督役の不在により工期の遅延が慢性化しています。今後、日本全国のインフラの老朽化が懸念され、2030年には約23万人の人手不足が発生するとの予測もあります。建設業界における人材不足の解消は喫緊の課題となっており、対策が急務とされています。
特に東京都では、少子高齢化が進む中での労働力不足に対処するため、特定技能という在留資格の導入とその適用範囲の拡大が議論されています。東京都の行政書士が監修を行い、外国人材の採用要件や技能試験に焦点を当てた対策が進められています。建設業界における人材不足を解消するための具体的な取り組みが求められており、地域ごとの違いを理解することが重要です。
特定技能「建設業」の受入人数
特定技能「建設」分野において、当初は2019年からの5年間で最大40,000人の外国人を受け入れる計画が立てられていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う大きな経済変動を受けて、令和5年度末までの間、特定技能1号外国人の受け入れ見込み数を最大34,000人に制限することとし、これが特定技能1号外国人の受け入れ上限となります。
2021年において、建設分野で活躍する外国人の数は約11万人で、全産業の約6.4%を占めていました。2015年からは、東京オリンピック・パラリンピック関連の施設整備などに伴う一時的な建設需要の増加に対応するため、技能実習修了者を対象とした「外国人建設就労者受け入れ事業」が開始され、2022年度をもって終了しました。
特定技能外国人については、2019年度から受け入れが開始され、コロナ禍による入国制限の影響もあるものの、その数は増加傾向にあります。また、2022年4月には、建設分野において2号特定技能外国人が初めて認定されました(具体的にはコンクリート圧送職種)。
業種 | 2019年から5年間受入人数 | 令和5年度末まで受入人数 |
介護 | 60,000人 | 50,900人 |
ビルクリーニング | 37,000人 | 20,000人 |
製造3分野 | 31,450人 | 49,750人 |
建設業 | 40,000人 | 34,000人 |
造船・舶用工業 | 13,000人 | 11,000人 |
自動車整備 | 7,000人 | 6,500人 |
航空業 | 2,200人 | 1,300人 |
宿泊業 | 22,000人 | 11,200人 |
農業 | 36,500人 | 36,500人 |
漁業 | 9,000人 | 6,300人 |
飲食料品製造業 | 34,000人 | 87,200人 |
外食業 | 53,000人 | 30,500人 |
特定技能「建設」の資格取得要件
建設業の特定技能(就労ビザ)を取得できる条件は、以下の3つです。
1.建設分野特定技能1号評価試験に合格すること
この試験は一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が実施しており、建設分野特定技能評価試験に合格することが、特定技能1号や2号を取得するために非常に重要です。職種ごとに異なる試験と級が指定されています。特に2号特定技能外国人の場合、実務経験も必要です。試験は学科と実技から成り立ち、コンピューターベースのCBT方式で行われます。各試験で65%以上の点数を取得すると合格です。
2.日本語能力試験(JLPT)N4以上、または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)に合格すること
JLPTは独立行政法人国際交流基金(JFT Basic)および公益財団法人日本国際教育支援協会(JEES)が運営しており、日本国内および海外で受験が可能です。建設業ではN4以上のレベルが求められます。JFT-Basicは独立行政法人国際交流基金(JFT Basic)が運営し、就労に際してはA2以上のレベルが必要です。試験は日本国内および海外で実施されており、試験日程は会場によって異なります。
3.技能実習からの移行
技能実習の2号を「良好に修了」した外国人労働者は、試験を免除され、特定技能の在留資格に変更できます。”良好に修了”とは以下の条件を満たすことを指します。
技能実習を2年10か月以上修了していること。
技能検定3級または同等の技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格していること。または、試験に受かっていなくても、受け入れ企業が外国人の実習中の勤務・生活態度に関する評価を記載した書面により、技能実習2号を「良好に修了した」と認められていること。
特定技能「建設」の業務内容
業務区分の見直しに関して、以前は業務が19の細分化された区分に分かれており、業務範囲が狭かったため、建設業に関連する作業の中で、特定技能の対象外となっていたものが存在し、専門工事業団体などから特定技能の適用を求める要望が寄せられていました。
見直し後では、業務区分を3つに統合し、業務範囲を拡大しました。そして、建設業に関連するすべての作業を新たな区分に組み入れました。特定技能外国人の安全性を確保する観点から、専門工事業団体と特定技能外国人受入事業実施法人が連携し、訓練や各種研修を充実させています。特に、建設技能者の役割は重要であり、彼らは現場での実務を通じて技術を習得し、建設プロジェクトの成功に貢献します。建設技能者が様々な現場で働くためには、指導を行う常勤職員の存在が不可欠です。
旧業務区分(19区分) | → | 土木区分 例:コンクリート圧送、とび、建設機械施工、塗装 等 | |
建築板金 | 内装仕上げ/表装 | ||
建築大工 | コンクリート圧送 | ||
型枠施工 | 建設機械施工 | ||
鉄筋施工 | トンネル推進工 | 建築区分 例:建設大工、鉄筋施工、とび、屋根ふき、左官、内装仕上げ、塗装、防水施工 等 | |
とび | 土工 | ||
屋根ふき | 電気通信 | ||
左官 | 鉄筋継手 | ||
配管 | 吹付ウレタン断熱 | ||
保温保冷 | 海洋土木工 | ライフライン・設備区分 例:配管、保温保冷、電気通信、電気工事 等 | |
+ | |||
その他建設業に係る全ての作業 | |||
例:電気工事、塗装、防水施工 等 |
企業側の受入れ要件
特定技能外国人を雇用する企業側にも、いくつかの要件が求められます。特に、特定技能所属機関としての義務や要件が重要です。特定技能所属機関は、加盟することが求められる協議会や法令遵守、支援体制を整える必要があります。また、特定技能外国人に対する具体的な支援内容や常勤職員数の制限についても考慮しなければなりません。
建設業法の許可 | 受入企業は、建設業法の許可が必要です。 |
建設技能人材機構(JAC)への加入 | 特定技能外国人を雇用するには、受け入れ企業はそれぞれの分野に応じた協議会(外食の場合は「食品産業特定技能協議会」)へ加入しなければなりません。 入会していないと外国人の受け入れが認められないため、期限となる外国人の入国後4ヶ月以内には必ず手続きを行いましょう。 |
特定技能外国人の人員上限 | 企業において、特定技能のビザを持つ外国人を通常の「常勤職員」よりも多く受け入れることは許可されていません。たとえば、企業が社長1人で経営している場合、特定技能の外国人労働者の受け入れ上限は1人に制限されます。同様に、社員が30人いる場合、特定技能の外国人技術者の受け入れ上限も30人となります。この制度では、通常の「常勤職員」の数が受け入れ上限として適用されるため、その点に留意する必要があります。 さらに、特定技能外国人が働くためには、技能者としての登録が必須です。技能者の登録は、技能実習生や特定技能労働者にとっても重要であり、これにより人員上限の管理が適切に行われます。 事業者と技能者の登録が不可欠であるため、企業はこの手続きを怠らないように注意する必要があります。 |
建設特定技能受入計画の認定 | 過去に技能実習生として建設業界で働いた外国人技術者を雇用したり、すでに特定技能を持つ転職者を採用する場合でも、国土交通省による認定が求められます。さらに、国交省の調査や指導に協力し、適切に「建設特定技能受入れ計画」を履行していることを確認することも必要です。 |
建設キャリアアップシステムへの登録 | 建設業を運営する事業者は、建設業振興基金が管理する建設キャリアアップシステムへの登録が必要です。この登録により、外国人労働者の在留資格、安全な労働環境での作業、社会保険への加入状況などが現場ごとに確認でき、不労就労を防ぐ手段となります。計画書には、建設キャリアアップシステム事業所番号(事業者ID)も記載してください。 重要な点として、これらの条件を満たさずに雇用している外国人技術者が不法就労と見なされた場合、入国管理法第73条の2第1項に基づき、懲役3年以下または300万円以下の罰金が科される可能性があるため、慎重に確認する必要があります。 |
これらの要件を満たすことで、特定技能外国人を適切に受け入れる体制が整います。
特定技能「建設」の採用プロセス
特定技能「建設」の人材を採用する際のプロセスは以下の通りです。まず、建設分野の特定技能外国人を採用するためには、特定技能の取得が必要です。特定技能外国人制度に基づき、受入企業は特定技能外国人の試験合格を確認し、受け入れ体制の整備を行う必要があります。また、受入企業には特定の義務があり、これを遵守することが求められます。
1.特定所属機関(受入れ企業)の要件
特定技能の介護士を受け入れるためには、受入れ企業(介護施設側)にも以下の要件があります。
まず、適切な雇用契約の締結、外国人に対する支援計画の策定と実施、そして特定技能協議会への加入が必要です。また、企業は外国人労働者を受け入れてから4ヶ月以内に「における特定技能協議」に加入する必要があります。特定技能外国人は訪問系サービスには従事できないため、住宅型有料老人ホーム、訪問介護事業所、サービス付き高齢者向け住宅などでは受け入れができません。
2.特定技能人材の採用フロー
特定技能「介護」の人材を採用する流れは以下の通りです。
介護分野における特定技能外国人の受け入れについては、特定技能協議会への参加や必要な手続き、要件を満たすことが求められます。
人材募集・面接
国内採用する場合
候補者は既に特定技能で働いている方、技能実習を修了見込みの方が対象です。自社での募集も可能ですが、多くの場合は登録支援機関や国内の人材紹介会社に依頼することが一般的です。
海外採用する場合
候補者は既に特定技能の資格要件を満たしている方、または今後技能試験や日本語試験を受験予定の方が対象。この場合、通常は海外の送り出し機関に人材募集を依頼するのが一般的です。
雇用契約の締結
内定者が確定したら、法律で定められた基準(業務内容、報酬、労働時間など)に従って、雇用契約を締結します。
支援計画の策定
特定技能外国人を雇用する際には、外国人が日本で安定的に働けるように支援する必要があります。在留資格申請時には、この支援内容を示す支援計画書を提出する必要があります。自社で支援を行うことが困難な場合は、登録支援機関に委託して、支援計画の策定および実施を受け入れ機関に代行してもらうことができます。
以下の内容が、法律で定められている支援内容です。
・事前ガイダンス 労働条件/業務内容/入国手続き等について、オンライン又は対面で説明 ・出入国する際の送迎 入国時に空港から事務所又は住居までの送迎 帰国時に空港までの送迎 ・住居確保・生活に必要な契約支援 賃貸契約、銀行口座の開設、契約電話の契約などを案内/支援する ・生活オリエンテーション 日本で安定して働くことができるよう、日本のルールやマナー、公共交通機関の利用方法などの説明 ・公的手続への同行 必要に応じて、住居地/社会保障/税金の手続きの同行、書類作成の支援 ・日本語学習機会の提供 日本語教室の入学案内、日本語学習教材の情報提供など ・相談・苦情への対応 職場や生活上の相談/苦情に対する対応 ・日本人との交流促進 ・転職支援(人員整理などの整理) 雇用主都合による雇用契約解除の場合は新たな就職先を探す手伝いや必要な行政手続きの情報提供など ・定期的な面談・行政機関への報告 支援責任者が外国人本人及びその上司と定期的に面談を実施し、労働基準法違反などあれば行政機関に報告 |
採用プロセスを適切に進めることで、優秀な外国人材を確保することができます。
採用に関する費用
特定技能「建設」の採用には、いくつかの費用が発生します。主な費用項目と相場は以下の通りです。
項目 | 相場 | 備考 |
人材紹介費(国内人材紹介会社を利用する場合) | 年収の30~40% | |
人材紹介費(海外送り出し機関を利用する場合) | 給与1ヶ月分又は約30万円 | 送り出し国によっては、海外送り出し機関を経由して採用することは必須 |
生活支援費 | 登録支援機関に月額2~3万円/人 | |
特定技能の書類作成委託費用 | 行政書士に10〜20万円。在留期間更新申請に毎年2~5万円程度発生 | |
健康診断費 | 約1万円 | |
渡航費用 | 10〜15万円 | 出身国により異なる |
これらの費用を考慮し、適切な採用予算を立てることが重要です。
送り出し国のルールと注意点
特定技能を海外から採用する場合、日本側の法律だけでなく、送り出し国のルールにも注意する必要があります。東南アジアの多くの国々では、その国が承認している送り出し機関を必ず通して採用することが義務付けられています。例えば、フィリピンではPOLOやPOEAという政府機関の承認を受けた上で、POEAが承認した現地の送り出し機関を通す必要があります。
これは、送り出し国側が海外で働く自国民の生命や安全を守るために設けられたルールです。送り出し機関を介さずに採用した場合、受け入れ企業だけでなく、候補者にも罰則が発生するため気をつける必要があります。
まとめ
特定技能「建設」は、日本の建設業界における人材不足解消の切り札として期待されています。主な特徴と重要ポイントは以下の通りです。
在留資格「特定技能」には1号と2号があり、建設分野では両方が認められている
資格取得には、技能試験と日本語能力試験の合格が必要
企業側にも様々な受入れ要件がある(JACへの加入、受入計画の認定など)
採用プロセスや費用、送り出し国のルールなど、多くの要素を考慮する必要がある
建設業界における外国人材の今後の展望
特定技能外国人の受入れ数は増加傾向
2022年4月には建設分野で初めて2号特定技能外国人が認定
今後も制度の改善や拡充が期待される
特定技能「建設」制度を適切に活用することで、建設業界の人材不足解消と、外国人材のキャリア形成の両立が可能となります。
よくある質問(FAQ)
Q: 特定技能「建設」の在留期間は何年ですか?
A: 特定技能1号の場合、最大5年です。特定技能2号には在留期間の制限がありません。
Q: 特定技能外国人の転職は可能ですか?
A: はい、可能です。ただし、建設分野内での転職に限られます。
Q: 特定技能「建設」の資格を取得するには、どのような試験に合格する必要がありますか?
A: 建設分野特定技能1号評価試験と、日本語能力試験(JLPT)N4以上または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)に合格する必要があります。
Q: 技能実習から特定技能への移行は可能ですか?
A: はい、技能実習2号を「良好に修了」した場合、試験免除で特定技能1号に移行できます。
Q: 特定技能外国人を雇用する際の人数制限はありますか?
A: はい、企業の通常の「常勤職員」数が上限となります。