はじめに
日本の造船・舶用工業分野は、深刻な人材不足に直面しています。この課題に対応するため、2019年4月に導入された特定技能制度は、外国人材の受け入れを促進し、業界の持続的な発展を支援しています。さらに、法務省は国土交通省と協力し、外国人労働者の受け入れに関する規制を定めています。
本記事では、特定技能「造船・舶用工業」に焦点を当て、資格要件から採用方法まで、包括的な情報を提供します。企業の人事担当者や特定技能での就労を目指す外国人の方々にとって、有益な内容となっています。
特定技能とは
特定技能制度は、人手不足が深刻な14の産業分野で外国人材の受け入れを可能にする制度です。
特定技能には1号と2号の2つのカテゴリがあります。
特定技能1号:最長5年の在留期間、家族帯同不可
特定技能2号:在留期間の更新可能、家族帯同可能
造船・舶用工業分野では、特定技能1号と2号の両方が設定されています。特定技能外国人がこの分野で働くためには、在留資格の取得が必要です。2023年6月末時点で、造船・舶用工業分野における特定技能外国人の受け入れ人数は6,377人となっています。現在の受け入れ上限人数は11,000人に設定されており、業界の需要に応じて調整されています。
造船・舶用工業の現状
造船・舶用工業は裾野の広い労働集約型産業として、主に瀬戸内や九州など地方圏の経済雇用において中核的な役割を担ってきました。しかし近年では少子高齢化や若者の地方から都市部への流出により、人手不足が深刻になっています。
造船・舶用工業分野における主な職種の2017年度の有効求人倍率は、溶接(金属溶接・溶断工)2.5倍、塗装(塗装工)4.3倍、鉄工(鉄工、製缶工) 4.21倍、仕上げ(めっき工、金属研磨工)4.41倍、機械加工(数値制御金属工作機械工) 3.45倍、電気機器組立て(電気工事作業員) 2.89倍となっており、全産業平均1.5倍を大きく上回っています。
これを受けて、造船・舶用工業分野では生産性向上や国内人材の確保に取り組んできましたが、人手不足を解消するには至っておらず、今後よりいっそう人材不足に陥る可能性もあり、その解決策として特定技能を含めた海外人材の活用が模索されてきました。登録支援機関は、特定技能ビザの下で外国人労働者を支援し、労働力不足に対処する重要な役割を果たしています。
特定技能「造船・舶用工業」の受け入れ人数
造船・舶用工業分野では、特定技能1号の受入れ上限人数が特定技能制度が始まった当初は最大13,000人と設定されていましたが、現在は11,000人に引き下げられています。
この分野では、特定技能制度が2019年から5年間で22,000人程度の人材不足が見込まれており、国内の人材確保や生産性向上の取り組みを行っても、不足する人数が13,000人に達するという見込みに基づいて、受入れ上限が設定されました。
ただし、経済状況の変化や人手不足の状況を考慮して、各分野で受入れ上限数の見直しが行われており、一部の分野では上限数が引き上げられている場合もあります。しかし、造船・舶用工業分野では2023年度末まで、受入れ上限を11,000人に引き下げて運用する方針が維持されています。
将来的には経済状況や人手不足の状況に応じて、再び受入れ人数の見直しが行われる可能性があることに留意されるべきです。
業種 | 2022年8月以前 (見直し前) | 2022年8月以降 (見直し後) |
介護 | 60,000人 | 50,900人 |
ビルクリーニング | 37,000人 | 20,000人 |
製造3分野 | 31,450人 | 49,750人 |
建設業 | 40,000人 | 34,000人 |
造船・舶用工業 | 13,000人 | 11,000人 |
自動車整備 | 7,000人 | 6,500人 |
航空業 | 2,200人 | 1,300人 |
宿泊業 | 22,000人 | 11,200人 |
農業 | 36,500人 | 36,500人 |
漁業 | 9,000人 | 6,300人 |
飲食料品製造業 | 34,000人 | 87,200人 |
外食業 | 53,000人 | 30,500人 |
2021年9月末時点で、特定技能「造船・舶用工業」の受け入れ人数は1,052人を記録し、国籍別では、フィリピンが645人で最多を占めています。
特定技能「造船・舶用工業」の在留資格取得要件
特定技能1号「造船・舶用工業」の取得には、以下の要件を満たす必要があります。
受験申請は、溶接、塗装、金属加工、機械加工、電気機器組立などの分野での技能評価試験の申請と受験に関する情報を提供します。試験は筆記試験と実技試験に分かれており、申請の詳細についてはリンクを参照してください。
●造船・舶用工業機整備業務ができる人材
この条件を満たすには、以下①または②のどちらかを満たすことで、特定技能1号「造船・舶用工業」を取得することができます。
①造船・舶用工業分野技能評価試験と日本語試験(日本語能力試験または国際交流基金日本語基礎テスト)に合格する。 |
②造船・舶用工業分野の技能実習2号から移行 |
業務上必要な技能及び日本語能力があることを証明するため、技能試験で一定以上の成績を修める必要があります。具体的には、造船・舶用工業分野技能評価試験に合格する必要があります。造船・舶用工業分野技能評価試験は筆記と実技に分かれてます。
特定技能評価試験は、日本国内で実施されていますが、今後は海外でも実施予定です。
●日本語試験に合格する
日本での就業や生活が可能な日本語能力があることを証明するため、日本語の試験で一定以上の成績を修める必要があります。具体的には、日本語能力試験のN4以上、もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格する必要があります。
<日本語能力試験> | 年2回実施される「日本語能力試験」で、「N4」以上の成績を取る必要があります。試験の評価はN1からN5まであり、N1がもっとも高難度です。N4は、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」レベルです。 |
<国際交流基金日本語基礎テスト> | 日本の生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定するテストです。「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定します。 |
●試験免除のケース(技能実習2号)
特定技能「造船・舶用工業」を取得するもうひとつは、「技能実習2号から移行する」という方法です。
新たに「特定技能」の制度が整備されたことにより、「技能実習」から「特定技能」への移行が可能になり、日本で在留し続けることもできるようになりました。
技能実習から特定技能への移行に必要とされる主な要件は以下の通りです。
1.技能実習2号を良好に修了 2.技能実習での職種/作業内容と、特定技能1号の職種が一致 |
申請書類
1:造船・舶用工業分野技能評価試験の合格証明書 2:日本語能力を証するものとして次のいずれかの写し a.国際交流基金日本語基礎テストの合格証明書 b.日本語能力試験(N4以上)の合格証明書 3:受け入れ先企業が造船・舶用工業分野特定技能協議会の構成員であることの証明書 |
特定技能「造船・舶用工業」で従事可能な業務
業務内容
造船業務は、マーケティング、営業、設計、開発、製造、資材調達など、多岐にわたる作業が含まれますが、特定技能外国人が関与するのは主に製造の部門です。
2020年4月20日時点で、特定技能「造船・舶用工業」は以下の6つの業務に分類されています。
特定技能1号と2号の主な違いは、特定技能1号は主に作業に従事する技能者であり、特定技能2号はこれらの作業員を指揮し、命令し、管理する監督者としての業務を追加的に担当します。
以下はこれらの6つの業務のリストで、特定技能1号は全ての業務に従事できますが、特定技能2号は「溶接」に特化しています。
造船・舶用工業分野では、以下の6つの業務区分が定められています。
業務区分 | 業務内容 |
溶接 | 手溶接 |
塗装 | 金属塗装作業噴霧塗装作業 |
鉄工 | 構造物鉄工作業 |
仕上げ | 治工具仕上げ作業金型仕上げ作業機械組て仕上げ作業 |
機械加工 | 普通旋盤作業数値制御旋盤作業フライス盤作業マシニングセンタ作業 |
電気機器組立て | 回転電機組立て作業変圧器組立て作業配電盤・制御盤組立て作業回転電機巻線製作作業 |
通常、特定技能1号および2号の技能者は、日本人の通常業務にも付随的に関与することが許容されています。業務区分を越えての業務は許可されていませんが、資材の運搬や清掃などの関連業務については、通常、日本人労働者が担当している場合は、特定技能外国人も従事することができます。ただし、溶接や機械加工など、主要な業務に関連する業務は、付随的な作業として必要に応じて行うことが求められます。
雇用条件と待遇
特定技能「造船・舶用工業」の雇用条件と待遇は以下の通りです。
雇用形態 | 直接雇用のみ(派遣形態は認められない) |
在留期間 | 最大5年(特定技能1号の場合) |
報酬 | 日本人が従事する場合の報酬と同等以上 |
特定技能外国人の権利は労働関係法令で保護されており、適切な労働条件の下で就労することが保証されています。さらに、造船・舶用工業分野における雇用条件も同様に厳格に管理されています。
特定技能「造船・舶用工業」人材の採用方法
特定技能「造船・舶用工業」人材の採用には、国内採用と海外採用の2つの方法があります。造船・舶用工業分野では、特に会議や議論を通じて採用方法が検討されています。
採用の流れは以下の通りです。
STEP1: 人材募集と面接 | 特定技能を採用するには、以下の2つの方法が考えられます 。 1. 国内から採用する場合 候補者はすでに特定技能で働いているか、技能実習を修了見込みの場合が多いです。この場合、自社で人材を募集することも可能ですが、一般的には登録支援機関や国内の人材紹介会社に依頼することが多いです 。 2. 海外から採用する場合 候補者は特定技能の資格要件を満たしているか、将来的に技能試験や日本語試験を受験する予定の場合があります。この場合、海外送り出し機関に人材募集を依頼することが一般的です 。 どちらの場合でも、候補者情報をもとに書類審査を行い、オンラインまたは対面で面接を実施し、採用の決定を進めていきます 。 |
STEP2:雇用契約を結ぶ | 内定者が決まったら、法律で規定された基準(業務内容、報酬、労働時間など)に従い、雇用契約を締結します 。 |
STEP3:支援計画を策定する | 特定技能外国人を雇用する場合は、彼らが日本で安定的に働けるように支援を行う必要があります。在留資格申請時に、この支援の方法を示す支援計画書を提出する必要があります。支援を自社で実施するのが難しい場合、登録支援機関に委託し、支援計画の策定と実施を代行してもらうことができます 。 法律で定められている支援内容は以下の通りです 。 ・事前ガイダンス オンラインまたは対面で、労働条件、業務内容、入国手続きなどについて説明を行います 。 出入国時の送迎 入国時には、空港から事務所または住居までの送迎を提供し、帰国時には空港までの送迎を行います。 ・住居確保と生活支援 賃貸契約や銀行口座の開設、契約電話の手続きなど、生活に必要な契約手続きを案内し、支援します 。 ・生活オリエンテーション 日本での安定した生活をサポートするため、日本のルール、マナー、公共交通機関の利用方法などを説明します。 ・公的手続きへの同行 住居地、社会保障、税金などの手続きが必要な場合、同行し、書類作成などの支援を行います。 ・日本語学習機会の提供 日本語教室の入学案内や日本語学習教材の情報提供など、日本語学習をサポートします 。 ・相談と苦情への対応 職場や生活上の相談や苦情に対応し、適切な支援を提供します。 ・日本人との交流促進 地域イベント(お祭りや行事など)の案内などを通じて、日本人との交流を促進します 。 ・転職支援(人員整理などの場合) 雇用主都合による雇用契約解除の場合、新たな就職先を探す手助けや、必要な行政手続きの情報提供を行います 。 ・定期的な面談と行政機関への報告 支援責任者が外国人本人およびその上司と定期的な面談を実施し、労働基準法違反などがあれば行政機関に報告します 。 |
STEP4:在留資格申請 | 支援計画が策定されたら、必要書類を地方出入国在留管理局に提出し、在留資格の申請を行います。申請が承認されると、証明書が交付され、候補者はこの証明書を持ってビザ申請を行います。在留資格申請の書類作成は、自社で行うことも可能ですが、行政書士に委託することもできます。 |
採用費用の相場
特定技能の採用に伴う費用は以下の通りです。
項目 | 相場 | 備考 |
人材紹介手数料(国内人材紹介会社を利用する場合) | 年収の30~40% | |
人材紹介費(海外送り出し機関を利用する場合) | 給与1ヶ月分又は約30万円 | 送り出し国によっては、海外送り出し機関を経由して採用することが必須になっている |
生活支援費 | 登録支援機関に月額2~3万円/人 | |
特定技能の書類作成委託費 | 行政書士に10〜20万円。在留期間更新申請に毎年2~5万円程度発生 | |
健康診断費 | 約1万円 | |
渡航費用 | 10〜15万円 | 出身国により異なる |
また、造船・舶用工業分野における採用費用も考慮する必要があります。
受入れ企業(特定所属機関)の要件
特定技能外国人を雇用する企業には、以下の要件が課されています。
国土交通省が定めた「造船・舶用工業分野特定技能協議会」に加入すること | 特定技能外国人を雇用するには、受け入れ企業はそれぞれの分野に応じた協議会(造船・舶用工業の場合は「造船・舶用工業分野特定技能協議会」)へ加入しなければなりません。入会していないと外国人の受け入れが認められないため、期限となる外国人の入国後4ヶ月以内には必ず手続きを行いましょう。 |
国土交通省からの「造船・舶用工業分野に係る事業を営む」企業であることの認定が必要 | 空港管理者により空港管理規則に基づく当該空港における営業の承認等を受けた事業者、若しくは造船・舶用工業運送事業者又は造船・舶用工業法に基づき国土交通大臣の認定を受けた造船・舶用工業機整備等に係る事業場を有する事業者若しくは当該事業者から業務の委託を受ける事業者であることです。 |
海外人材に対して適切な支援を行うこと | 特定技能制度を活用して海外人材を雇用するには、定められた支援を適切に行わなければいけません。受け入れ企業でサポートしきれない場合は、登録支援機関に支援業務を委託します。 |
さらに、造船・舶用工業において特定技能外国人を雇用する場合、特定技能所属機関として造船・舶用工業特定技能協会に所属し、国土交通省からの認証を受ける必要があります。
これらの要件を満たすことで、特定技能外国人の受け入れが可能となります。
送り出し国のルールと注意点
特定技能外国人を海外から採用する場合、送り出し国のルールに注意する必要があります。多くの東南アジア諸国では、政府が承認した送り出し機関を通じての採用が義務付けられています。さらに、登録 支援 機関は外国人労働者の採用プロセスにおいて重要な役割を果たします。
例えば、フィリピンではPOLO(フィリピン海外労働事務所)やPOEA(フィリピン海外雇用庁)の承認を受けた送り出し機関を通す必要があります。これらのルールを遵守しないと、受入れ企業だけでなく、候補者にも罰則が科される可能性があるので注意が必要です。
まとめ
特定技能「造船・舶用工業」制度は、日本の造船・舶用工業分野における人材不足の解消と、外国人材のキャリア機会の提供という二つの目的を達成するための重要な取り組みです。
本制度を活用することで、企業は必要な人材を確保し、外国人材は日本で技能を磨きながら働くことができます。ただし、適切な手続きと支援の実施が不可欠であり、受入れ企業と外国人材の双方が制度を正しく理解し、活用することが重要です。さらに、法務省の規定に従い、制度の適用と運用が行われます。
よくある質問(FAQ)
Q: 造船の特定技能の職種は?
A: 造船の特定技能では、溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立ての6つの職種が定められています。
Q: 造船・舶用工業の技能評価試験の受験申請方法は?
A: 造船・舶用工業の技能評価試験の受験申請は、溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立ての各職種ごとに行われます。試験は筆記試験と実技試験に分かれており、詳細な申請方法や試験日程についてはこちらをご覧ください。
Q:特定技能「造船・舶用工業」を雇用するために、何かに会員になる必要がありますか?
A:所属機関として、造船・舶用工業分野で外国人労働者を雇用するためには、造船・舶用工業特定技能協会の会員となり、必要な協力を提供し、国土交通省からの認証を取得する必要があります。