はじめに
日本の自動車整備業界は、深刻な人手不足に直面しています。この課題に対応するため、政府は2019年に特定技能制度を導入しました。本記事では、特定技能「自動車整備業」について包括的に解説し、資格取得から採用までの重要な情報をお届けします。
自動車整備業における特定技能外国人の受け入れ状況は、2023年6月末時点で2,210人となっています。この数字は、業界の人材ニーズの高さを示していると言えるでしょう。
特定技能とは
特定技能は、日本国内の人手不足が深刻な産業分野で外国人材の雇用を可能にする在留資格です。自動車整備業は、この特定技能の対象分野の一つとなっています。
特定技能には1号と2号があり、主な違いは以下の通りです:
特定技能1号:最長5年の在留期間、家族帯同不可
特定技能2号:在留期間の更新制限なし、家族帯同可能
自動車整備業では、当初は特定技能1号のみが設定されていましたが、2023年6月に特定技能2号も追加されました。
現在、自動車整備業の特定技能外国人の受入れ上限は6,500人に設定されています。この数字は、業界の需要に応じて見直される可能性があります。
自動車整備業の現状
自動車整備業は急速に進む少子高齢化を背景に、人手不足が深刻になっています。
国土交通省によると、自動車整備業における従業員数はほぼ横ばいで推移(整備要因は約40万人)しているものの、自動車整備要員の有効求人倍率は2011年以降右肩上がりに伸びており、全職種と比べても非常に高い水準を記録しています。
特定技能「自動車整備業」の資格取得要件
国土交通省によると、特定技能1号「自動車整備業」の人材要件は以下の通りです 。
●自動車の日常点検整備、定期点検整備及び分解整備ができる人材
この条件を満たすには、以下①または②のどちらかを満たすことで、特定技能1号「自動車整備業」を取得することができます 。
①自動車整備の技能(「自動車整備特定技能評価試験」または「自動車整備士技能検定試験3級」)と日本語能力の試験 |
②自動車整備業分野の技能実習2号から移行する |
●自動車整備の技能試験に合格する
業務上必要な技能及び日本語能力があることを証明するため、技能試験で一定以上の成績を修める必要があります。具体的には、自動車整備特定技能評価試験、もしくは自動車整備士技能検定試験3級に合格する必要があります。自動車整備特定技能評価試験は、特定技能資格を取得するための重要な試験です。
自動車整備特定技能評価試験は学科と実技に分かれており、出題項目は以下の通りです。実技試験では、実際の整備作業を通じて技能を評価します。実務経験が必要であり、これにより実際の業務での適応力が確認されます。
特定技能評価試験には1号評価試験と2号評価試験があり、1号評価試験は基礎的な技能を評価し、2号評価試験はより高度な技能を評価します。
①学科科目 | ・構造、機能及び取扱法に関する初等知識 ・点検、修理及び調整に関する初等知識 ・整備用の試験機、軽量器及び工具の構造、機能及び取扱法に関する初等知識 ・材料及び燃料油脂の性質及び用法に関する初等知識 |
②実技科目 | ・簡単な基本工作 ・分解、組み立て、簡単な点検及び調整 ・簡単な修理 ・簡単な整備用の試験機、軽量器及び工具の取り扱い |
特定技能評価試験は、日本国内のほか海外でも行われており、すでにフィリピンで実施されています。
b) 日本語能力試験 以下のいずれかに合格する必要があります。
日本での就業や生活が可能な日本語能力があることを証明するため、日本語の試験で一定以上の成績を修める必要があります。具体的には、日本語能力試験のN4以上、もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格する必要があります 。
<日本語能力試験> | 年2回実施される「日本語能力試験」で、「N4」以上の成績を取る必要があります。試験の評価はN1からN5まであり、N1がもっとも高難度です。N4は、「基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる」レベルです。 |
<国際交流基金日本語基礎テスト> | 日本の生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定するテストです。「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」があるかどうかを判定します。 |
技能実習2号を修了した方は、上記の試験が免除される場合があります。
特定技能「自動車整備業」で許可される業務内容
特定技能「自動車整備業」では、以下の業務が認められています。
日常点検整備
日常点検整備は、自動車が安全に運行できるようにするための基本的な点検および整備を行います。主な作業内容は以下の通りです。
エンジンオイルの確認と補充 | エンジンオイルの量と状態を確認し、必要に応じて補充します。 |
タイヤの点検 | タイヤの空気圧、トレッド(溝)の深さ、損傷の有無を確認します。 |
ブレーキの点検 | ブレーキ液の量を確認し、ブレーキパッドやディスクの状態を点検します。 |
バッテリーの点検 | バッテリーの電圧や端子の状態を確認し、必要に応じて清掃や補充を行います。 |
ライトやウィンカーの確認 | 全てのライト(ヘッドライト、テールライト、ブレーキランプ等)やウィンカーが正常に動作するか確認します。 |
ワイパーとウォッシャー液の点検 | ワイパーブレードの状態を確認し、ウォッシャー液を補充します。 |
定期点検整備
定期点検整備は、法定で定められた期間ごとに行う詳細な点検および整備です。車両の性能や安全性を維持するために必要です。主な作業内容は以下の通りです。
エンジン関連の点検 | エンジンの各部品やシステムの点検、オイルやフィルターの交換など。 |
駆動系の点検 | トランスミッション、クラッチ、ドライブシャフトなどの点検。 |
サスペンションの点検 | ショックアブソーバー、スプリング、リンクなどの状態を確認し、必要に応じて整備します。 |
ブレーキシステムの点検 | ブレーキパッド、ディスク、ドラム、ブレーキホースなどの点検と整備。 |
排気システムの点検 | マフラー、触媒コンバーター、排気管などの点検。 |
電気系統の点検 | バッテリー、オルタネーター、スターター、各種センサーなどの点検。 |
燃料システムの点検 | 燃料ポンプ、フィルター、インジェクターなどの点検と清掃。 |
分解整備
分解整備は、車両の特定部分を分解して行う詳細な整備作業です。通常、故障や大規模な修理が必要な場合に行われます。主な作業内容は以下の通りです。
エンジン分解整備 | エンジンを分解して各部品を点検、修理、または交換します。ピストン、シリンダー、バルブ、カムシャフトなどが含まれます。 |
トランスミッションの分解整備 | トランスミッションを分解して内部のギア、シンクロメッシュ、ベアリングなどを点検し、必要に応じて整備します。 |
サスペンションの分解整備 | ショックアブソーバーやスプリング、その他のサスペンションコンポーネントを分解して点検、整備します。 |
ブレーキシステムの分解整備 | ブレーキキャリパー、マスターシリンダー、ホイールシリンダーなどの分解と点検を行い、修理や交換を実施します。 |
ステアリングシステムの分解整備 | ステアリングギアボックスやラックアンドピニオンの分解点検と整備。 |
雇用形態と報酬
雇用形態は直接雇用のみが認められ、派遣形態は認められません。報酬については、日本人従業員と同等以上の水準が求められます。
企業が特定技能「自動車整備業」の外国人材を採用するには
特定技能外国人を雇用する企業(特定所属機関)には、以下の要件があります。
1:国土交通省が定めた「自動車整備分野特定技能協議会」に加入すること 特定技能外国人を雇用するには、受け入れ企業はそれぞれの分野に応じた協議会(自動車整備業の場合は「自動車整備分野特定技能協議会」)へ加入しなければなりません。入会していないと外国人の受け入れが認められないため、期限となる外国人の入国後4ヶ月以内には必ず手続きを行いましょう。 2:道路運送車両法第78条第1項に基づく、地方運輸局長の認証(限定認証や二輪のみも含む)を受けた事業場であること 3:海外人材に対して適切な支援を行うこと 特定技能制度を活用して海外人材を雇用するには、定められた支援を適切に行わなければいけません。受け入れ企業でサポートしきれない場合は、登録支援機関に支援業務を委託します。 |
特定技能外国人を雇用する際の注意点として、企業は労働条件や福利厚生の整備を徹底することが重要です。また、文化や言語の違いを理解し、適切なサポート体制を整えることも求められます。
採用の流れ
STEP1: 人材募集と面接 | 特定技能を採用するには、以下の2つの方法が考えられます 。 1. 国内から採用する場合 候補者はすでに特定技能で働いているか、技能実習を修了見込みの場合が多いです。この場合、自社で人材を募集することも可能ですが、一般的には登録支援機関や国内の人材紹介会社に依頼することが多いです 。 2. 海外から採用する場合 候補者は特定技能の資格要件を満たしているか、将来的に技能試験や日本語試験を受験する予定の場合があります。この場合、海外送り出し機関に人材募集を依頼することが一般的です 。 どちらの場合でも、候補者情報をもとに書類審査を行い、オンラインまたは対面で面接を実施し、採用の決定を進めていきます 。 |
STEP2:雇用契約を結ぶ | 内定者が決まったら、法律で規定された基準(業務内容、報酬、労働時間など)に従い、雇用契約を締結します 。 |
STEP3:支援計画を策定する | 特定技能外国人を雇用する場合は、彼らが日本で安定的に働けるように支援を行う必要があります。在留資格申請時に、この支援の方法を示す支援計画書を提出する必要があります。支援を自社で実施するのが難しい場合、登録支援機関に委託し、支援計画の策定と実施を代行してもらうことができます 。 法律で定められている支援内容は以下の通りです 。 ・事前ガイダンス オンラインまたは対面で、労働条件、業務内容、入国手続きなどについて説明を行います 。 出入国時の送迎 入国時には、空港から事務所または住居までの送迎を提供し、帰国時には空港までの送迎を行います。 ・住居確保と生活支援 賃貸契約や銀行口座の開設、契約電話の手続きなど、生活に必要な契約手続きを案内し、支援します 。 ・生活オリエンテーション 日本での安定した生活をサポートするため、日本のルール、マナー、公共交通機関の利用方法などを説明します。 ・公的手続きへの同行 住居地、社会保障、税金などの手続きが必要な場合、同行し、書類作成などの支援を行います。 ・日本語学習機会の提供 日本語教室の入学案内や日本語学習教材の情報提供など、日本語学習をサポートします 。 ・相談と苦情への対応 職場や生活上の相談や苦情に対応し、適切な支援を提供します。 ・日本人との交流促進 地域イベント(お祭りや行事など)の案内などを通じて、日本人との交流を促進します 。 ・転職支援(人員整理などの場合) 雇用主都合による雇用契約解除の場合、新たな就職先を探す手助けや、必要な行政手続きの情報提供を行います 。 ・定期的な面談と行政機関への報告 支援責任者が外国人本人およびその上司と定期的な面談を実施し、労働基準法違反などがあれば行政機関に報告します 。 |
STEP4:在留資格申請 | 支援計画が策定されたら、必要書類を地方出入国在留管理局に提出し、在留資格の申請を行います。申請が承認されると、証明書が交付され、候補者はこの証明書を持ってビザ申請を行います。在留資格申請の書類作成は、自社で行うことも可能ですが、行政書士に委託することもできます。 |
採用にかかる費用と送り出し国のルール
特定技能外国人の採用には、以下のような費用が発生します 。
項目 | 相場 | 備考 |
人材紹介手数料(国内人材紹介会社を利用する場合) | 年収の30~40% | |
人材紹介費(海外送り出し機関を利用する場合) | 給与1ヶ月分又は約30万円 | 送り出し国によっては、海外送り出し機関を経由して採用することが必須になっている |
生活支援費 | 登録支援機関に月額2~3万円/人 | |
特定技能の書類作成委託費 | 行政書士に10〜20万円。在留期間更新申請に毎年2~5万円程度発生 | |
健康診断費 | 約1万円 | |
渡航費用 | 10〜15万円 | 出身国により異なる |
送り出し国によっては、政府が承認した送り出し機関を通じての採用が義務付けられている場合があります。例えば、フィリピンではPOEAの承認を受けた送り出し機関を利用する必要があります。
まとめ
特定技能「自動車整備業」は、日本の自動車整備業界における人手不足解消の重要な施策です。外国人材にとっては技術を習得しキャリアを積む機会となり、企業にとっては貴重な人材確保の手段となります。
適切な支援体制を整備し、外国人材と共に成長する企業文化を築くことが、この制度を成功させる鍵となるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q: 自動車整備業で特定技能を取得するための要件は?
A: 技能試験(自動車整備特定技能評価試験または自動車整備士技能検定試験3級)と日本語能力試験(N4以上または国際交流基金日本語基礎テスト)に合格する必要があります。自動車整備分野の要件には、特定の技術と知識が求められます。
Q: 特定技能の外国人材を雇用する際の企業側の義務は?
A: 自動車整備分野特定技能協議会への加入、適切な支援の実施、法定の認証を受けた事業場であることなどが求められます。
Q: 技能実習から特定技能への移行は可能ですか?
A: はい、技能実習2号を良好に修了した場合、特定技能の試験が免除される可能性があります。
Q: 日常点検整備、定期点検整備、分解整備の違いは何ですか?
A: 順に自動車が安全に運行できるようにするための基本的な点検および整備作業、法定で定められた期間ごとに行う詳細な点検および整備作業、車両の特定部分を分解して行う詳細な整備作業という違いになります。