特定技能「漁業」完全ガイド:資格取得から採用まで

特定技能「漁業」完全ガイド:資格取得から採用まで

はじめに

日本の漁業分野では深刻な人手不足が続いています。この課題に対応するため、政府は「特定技能」という在留資格を設けました。本記事では、特定技能「漁業」に焦点を当て、資格取得から採用までの包括的な情報を提供します。

特定技能制度は、日本国内の人手不足が顕著な分野で即戦力となる外国人材の雇用を可能にする制度です。漁業分野もその対象となっており、外国人材の受け入れが進んでいます。

特定技能「漁業」分野の概要

特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つのカテゴリーがあります。特定技能1号は最長5年の在留期間が認められ、家族の帯同は原則として認められません。特定技能1号を取得するためには、漁業技能試験と日本語試験に合格する必要があります。また、特定技能2号を取得するためには、少なくとも2年間の実務経験が必要です。一方、特定技能2号は在留期間の更新に制限がなく、家族の帯同も可能です。

漁業分野での特定技能の位置づけは非常に重要です。漁業従事者の高齢化と後継者不足が進む中、外国人材の受け入れは産業の維持・発展に不可欠となっています。技能実習2号から特定技能1号への移行には、一定の要件を満たす必要があります。

受入れ人数の推移と最新の受入れ上限については、当初2019年からの5年間で最大9,000人の受け入れが計画されていました。しかし、新型コロナウイルスの影響を考慮し、令和5年度末までの特定技能1号外国人の受け入れ見込み数は最大6,300人に修正されています。

業種2022年8月以前 (見直し前)2022年8月以降 (見直し後)
介護60,000人50,900人
ビルクリーニング37,000人20,000人
製造3分野31,450人49,750人
建設業40,000人34,000人
造船・舶用工業13,000人11,000人
自動車整備7,000人6,500人
航空業2,200人1,300人
宿泊業22,000人11,200人
農業36,500人36,500人
漁業9,000人6,300人
飲食料品製造業34,000人87,200人
外食業53,000人30,500人

漁業業界の現状

日本の漁業従事者は年々減少しており、特に熟練の高齢労働者の引退が進む一方で、若年層の新規漁業従事者の数は横ばいのままです。この結果、漁業における人手不足が深刻化し、安定的な水産物供給体制が危機に瀕しています(下図参照)。

現状では、65歳以上の経験豊富な高齢労働者が漁業従事者の約2割を占めており、彼らの引退が進むにつれ、さらに人手不足が悪化することが予想されています。そのため、日本の漁業が持続し、発展するためには、国民の需要に応じて水産物を安定的に供給する体制を確立する必要があります。また、漁業が持つ多様な機能を将来にわたって発揮させることも重要です。

特定技能「漁業」1号の資格取得要件

特定技能「漁業」の在留資格を取得するには、最初に漁業の基礎知識を評価する漁業技能測定試験と、日本語能力試験に合格し、特定技能2号に移行するための具体的な要件と試験プロセスを満たす必要があります。農林水産省は、技能試験の実施と業界支援において重要な役割を果たしています。

<漁業技能測定試験>漁業技能測定試験は、「漁業」と「養殖業」の技能分野に分かれています。
「漁業」の場合、漁船漁業職種の技能実習評価試験(専門級)と同程度のスキルが要求され、
一方「養殖業」では養殖業職種の技能実習評価試験(専門級)と同程度の能力が必要です。

①漁業
漁船漁業職種8作業:かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業

②養殖業
養殖業職種1作業:ほたてがい・まがき養殖作業
<日本語能力試験>日本語能力試験のN4に合格するには、日常会話レベルの日本語スキルが必要です。JLPT(日本語能力試験)では、N4の試験内容は「基本的な語彙や漢字を用いた身近な文章を読んで理解できる能力がある」および「ややゆっくりと話される会話を通じて、内容をほぼ理解できる能力がある」難易度として評価されています。
<技能実習2号から移行>技能実習生のうち、以下の技能実習2号を修了した場合、必要な技能水準と日本語能力水準を満たしているものとみなし、上記の技能試験と日本語試験は不要です。

特定技能2号になるためには

「特定技能2号」で外国人ん材を受け入れる場合は、受け入れる外国人材は下記の条件を全て満たす必要があります。

⚫️2号漁業技能測定試験の合格
特定技能1号と同様に「漁業」と「養殖業」の2つの試験区分があります。

⚫️日本語能力試験(JLPT) N3以上の合格

⚫️漁業又は養殖業の実務経験

<漁業の場合>漁船法上の登録を受けた漁船において、操業を指揮監督する者を補佐する者又は作業員を指導しながら作業に従事し、作業工程を管理する者として実務経験を2年以上有すること。
<養殖業の場合>漁業法及び内水面の振興に関する法律に基づき行われる養殖業の現場において、養殖を管理する者を補佐する者又は作業員を指導しながら作業に従事し、作業工程を管理する者としての実務経験を2年以上有すること。

※実務経験には、特定技能1号での経験は含まれます。しかし技能等の習得が目的とされる技能実習での経験は含まれません。

特定技能「漁業」の業務内容

特定技能「漁業」の業務内容は、大きく漁業と養殖業に分かれます。養殖水産動植物の生産、管理、加工に関連する具体的な業務が含まれます。

以下の内容が「漁業」・「養殖」の業務区分内容になります。

<漁業>水産業において必要な作業には、漁具の製作・補修、漁業動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、漁業動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、そして安全衛生の確保などが含まれます。
<養殖業>養殖業における重要なタスクには、養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲・処理、そして安全衛生の確保が含まれます。

特定技能人材には関連性の低い付属業務を割り当てることは原則として認められています。ただし、本来の業務に関連性があると考えられる範囲内でのみ付属業務を行うべきであり、極端に外れた業務を任せることは避けるべきです。

雇用形態と報酬

漁業分野の雇用形態は、特定技能の他業種とは異なり、直接雇用だけでなく、派遣労働者の受け入れも許可されています。この特例の背後には、季節的な要因やその他の不確実性から、外国人特定技能労働者に安定した賃金支払いが難しい場合があるため、派遣労働者が有効な選択肢と見なされていることがあります。

報酬は「日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること」が求められます。

漁業・水産業や養殖業の主要なポジション、例えば船長や漁労長などは、特定技能外国人が主体的に担当することは許可されていません。したがって、特定技能外国人をこれらの役職に就かせないように十分な注意が必要です。

特定技能「漁業」の採用プロセス

特定技能「漁業」の採用プロセスは、以下になります。また国内採用と海外採用で異なります。

STEP1: 人材募集と面接特定技能を採用するには、以下の2つの方法が考えられます 。

1. 国内から採用する場合
候補者はすでに特定技能で働いているか、技能実習を修了見込みの場合が多いです。この場合、自社で人材を募集することも可能ですが、一般的には登録支援機関や国内の人材紹介会社に依頼することが多いです 。

2. 海外から採用する場合
候補者は特定技能の資格要件を満たしているか、将来的に技能試験や日本語試験を受験する予定の場合があります。この場合、海外送り出し機関に人材募集を依頼することが一般的です 。
どちらの場合でも、候補者情報をもとに書類審査を行い、オンラインまたは対面で面接を実施し、採用の決定を進めていきます 。
STEP2:雇用契約を結ぶ内定者が決まったら、法律で規定された基準(業務内容、報酬、労働時間など)に従い、雇用契約を締結します 。
STEP3:支援計画を策定する特定技能外国人を雇用する場合は、彼らが日本で安定的に働けるように支援を行う必要があります。在留資格申請時に、この支援の方法を示す支援計画書を提出する必要があります。支援を自社で実施するのが難しい場合、登録支援機関に委託し、支援計画の策定と実施を代行してもらうことができます 。 

法律で定められている支援内容は以下の通りです 。

・事前ガイダンス
オンラインまたは対面で、労働条件、業務内容、入国手続きなどについて説明を行います 。
出入国時の送迎
入国時には、空港から事務所または住居までの送迎を提供し、帰国時には空港までの送迎を行います。

・住居確保と生活支援
賃貸契約や銀行口座の開設、契約電話の手続きなど、生活に必要な契約手続きを案内し、支援します 。

・生活オリエンテーション
日本での安定した生活をサポートするため、日本のルール、マナー、公共交通機関の利用方法などを説明します。

・公的手続きへの同行
住居地、社会保障、税金などの手続きが必要な場合、同行し、書類作成などの支援を行います。

・日本語学習機会の提供
日本語教室の入学案内や日本語学習教材の情報提供など、日本語学習をサポートします 。

・相談と苦情への対応
職場や生活上の相談や苦情に対応し、適切な支援を提供します。

・日本人との交流促進
地域イベント(お祭りや行事など)の案内などを通じて、日本人との交流を促進します 。

・転職支援(人員整理などの場合)
雇用主都合による雇用契約解除の場合、新たな就職先を探す手助けや、必要な行政手続きの情報提供を行います 。

・定期的な面談と行政機関への報告
支援責任者が外国人本人およびその上司と定期的な面談を実施し、労働基準法違反などがあれば行政機関に報告します 。
STEP4:在留資格申請支援計画が策定されたら、必要書類を地方出入国在留管理局に提出し、在留資格の申請を行います。申請が承認されると、証明書が交付され、候補者はこの証明書を持ってビザ申請を行います。在留資格申請の書類作成は、自社で行うことも可能ですが、行政書士に委託することもできます。

外国人材受入れ企業の要件と責任

特定技能外国人を雇用する際、特定技能所属機関には、受け入れ企業としての責任と資格が求められます。さらに、漁業特定技能協議において必要な協力支援についても議論されます。

1:漁業特定技能協議会に参加し、協議会の活動に協力し、特定技能人材の育成に貢献すること
この漁業特定技能協議会は、水産庁、大日本水産会、全国漁業協同組合連合会、全日本海員組合、全国海水養魚協会から構成される協議会で、協議会のメンバーは特定技能人材の保護と育成、メンバー間の連携強化を促進するために相互連絡を取り合っています。この協議会は、受け入れに関連する事項だけでなく、特定技能人材が転職を検討する際の相談も受け付けています。
※特定技能1号外国人を受け入れてから4か月以内に加入する必要があります。

2:海外人材に対して適切な支援を行うこと
特定技能制度を活用して海外人材を雇用するには、定められた支援を適切に行わなければいけません。受け入れ企業でサポートしきれない場合は、登録支援機関に支援業務を委託します。

また受入れ企業は、外国人材が日本で安定して働けるよう、以下のような支援を提供する必要があります。

採用にかかる費用と期間

特定技能の採用に伴う費用は以下の通りです。

各費用費用相場
人材紹介費(国内人材紹介会社を利用する場合)年収の30~40%
人材紹介費(海外送り出し機関を利用する場合)給与1ヶ月分or20万円〜送り出し国によっては、海外送り出し機関を経由して採用することは必須
生活支援費登録支援機関に月額2~3万円/一人
特定技能の書類作成委託費用行政書士に10〜20万円。在留期間更新申請に毎年2~5万円程度発生
健康診断費約1万円
渡航費用10〜15万円1人当たりの費用

採用までにかかる期間の目安

国内採用

2~3ヶ月程度

海外採用

3~4ヶ月程度

まとめ

特定技能「漁業」は、日本の漁業分野における人手不足解消の重要な施策です。外国人材の受け入れにより、産業の維持・発展が期待されています。採用を検討する企業は、制度の詳細を理解し、適切な支援体制を整えることが重要です。また、送り出し国のルールにも注意を払い、コンプライアンスを遵守しながら、外国人材と共に成長していく姿勢が求められます。

よくある質問(FAQ)

Q: 特定技能はどんな漁業種類で使えるのか?
A: 全ての漁業・養殖業種類で利用可能です。制度を利用するためには、漁業特定技能協議会への加入が必須です。

Q: 特定技能2号になるための外国人材の条件は?
A: 受入れる外国人材は、日本国内で の漁業・養殖業の実務経験(2年以 上)に加えて、2号漁業技能測定試験 と日本語能力試験(N3以上)に合格することが必須です。

Q: 特定技能2号になるための実務経験は、技能実習の経験も含まれますか?
A: 含まれません。特定技能1号での経験は含まれますが、技能等の習得が目的とされる技能実習での経験は含まれません。

Q: 特定技能「漁業」の雇用契約はどのようなものですか?
A: 漁業分野の雇用形態は、直接雇用と派遣労働者の受入れも許可されています。

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