1. はじめに
日本の林業は、長年にわたり人手不足と高齢化という課題に直面してきました。この状況を改善するため、政府は特定技能制度を導入し、外国人労働者の受け入れを促進しています。本記事では、林業分野における特定技能制度の活用方法と、企業が特定技能外国人を受け入れる際のポイントを詳しく解説します。
2. 林業分野における特定技能制度の概要
特定技能制度は、一定の専門性や技能を有する外国人材に、日本での就労を認める在留資格です。林業分野では、この制度を通じて外国人材の受入れが進められています。
特定技能制度の特徴
在留期間:最長5年
対象分野:林業を含む14分野
要件:一定の技能と日本語能力
林業分野での特定技能の位置づけは、主に素材生産や木材産業における人材確保を目的としています。在留資格「特定技能」の要件として、技能試験と日本語能力試験の合格が必要です。
木材産業分野における特定技能の適用範囲は、以下の業務区分に分類されます。
1.造林・育林 2.伐木 3.集材・運材 4.木材加工 |
林業分野の現状
日本の森林の約4割を占める人工林が、資源として利用可能な段階に達しており、国産材の安定供給への期待が高まっています。政府は、木材供給量の増加を目指しており、また、花粉症対策の一環として林業の生産性向上と労働力確保が重要視されています。こうした背景から、林業分野で深刻な人手不足を解消し、分野の持続可能な発展を図るため、特定技能外国人の受け入れが進められています。
林業分野では、生産性向上と国内人材確保のため、以下の取り組みが進められています。
機械化の推進: 森林施業プランナーの育成や高性能林業機械の導入を進めることで、作業効率を向上。
新技術の活用: 新しい林業技術を取り入れ、素材生産の生産性を向上させています。具体的には、過去10年間で主伐や間伐の生産性が約3割向上しました。
さらに、木材供給量の目標を4200万㎥に設定し、これを達成するために引き続き生産性の向上を図りつつ、グリーン成長による社会経済の向上とカーボンニュートラルの達成を目指しています。
4. 林業における現状と外国人労働者受け入れの必要性
木材需要が拡大している一方で、林業従事者数は過去10年間で14%減少し、2020年には4万4,000人まで減少しました。また、山村地域では全国平均を上回るペースで人口減少が進み、高齢化率も40.6%と非常に高く、人材確保が難しくなっています。2022年度の林業分野の有効求人倍率は2.35倍であり、需要に対して大きな人手不足が生じています。
政府は、2030年度までに木材供給量を4,120万㎥とする目標を掲げていますが、現状の生産性では、5万8,000人の就業者が必要であり、2万人ほどの人手不足が予測されています。このため、林業の持続的な発展を支えるためには、基本的な知識と技能を持ち、現場で即戦力となる外国人労働者の受け入れが不可欠です。
受入れ見込数
林業分野における令和6年度からの向こう5年間の受入れ見込数は、最大で 1,000 人であり、これを令和 10 年度末までの5年間の受入れの上限として運用する。 当該受入れ見込数は、林業分野において、令和 10 年度には2万人程度の人手不足 が見込まれる中、森林の経営管理の集積等による生産性向上(これまでの生産性向 上のペースを維持したと仮定すると令和 10 年度には1万 5,000 人程度)や、林業 の担い手対策による追加的な国内人材の確保(令和 10 年度には 4,000 人程度)を 行ってもなお不足すると見込まれる最大 1,000 人を1号特定技能外国人の受入れ上 – 3 – 限として運用するものであり、過大なものとはなっていない。
5.技能評価試験について
技能水準
この試験では、以下の能力が問われます:
育林、素材生産、安全衛生に関する基本知識: 各種作業を安全に行い、正しい手順で一定時間内に確実に遂行できること。
日本語理解力: 日本語で指示された作業内容を聴き取り、理解できること。
合格者は、林業分野で即戦力として必要な知識や技能を持つと認められます。
評価方法
試験言語: 日本語(ひらがな、カタカナ、またはふりがな付きの漢字)
実施主体: 農林水産省が選定した機関
試験方法: 学科試験(CBT方式またはペーパーテスト方式)および実技試験
試験の適正な実施
受験者の本人確認のため、送出国の公的機関が発行する写真付き書類を提示させ、不正受験を防止します。
国内試験の対象者
国内で試験を受けるには、在留資格を持つ者に限り受験資格が認められます。
6. 特定技能協議会との連携
林業分野の特定技能外国人を受け入れようとする場合、林業特定技能協議会に加入いただき、加入後は本協議会が行う活動に対して必要な協力を行うなどしなければなりません。
林業特定技能協議会は、特定技能外国人の適正な受入れと安定的な就労を支援する組織です。協議会との連携により、以下のメリットがあります。
情報共有と好事例の学習
課題解決に向けた協力体制の構築
業界全体での取り組み推進
協議会に参加することで、他の受入れ機関との情報交換や、共通課題への対応策を検討することができます。
7. 特定技能外国人の活用事例
林業分野での特定技能外国人の活用事例には、以下のようなものがあります:
素材生産における活用例:
伐採作業での補助
機械操作の習得と効率化
木材加工での貢献事例:
製材工程での作業効率向上
品質管理への新たな視点の導入
森林管理業務での成功例:
植林作業での活躍
ICT技術を活用した森林調査
これらの事例から、特定技能外国人が林業の各分野で重要な役割を果たしていることがわかります。
8. 政府の支援策と今後の展望
農林水産省と厚生労働省は、特定技能外国人の受入れを支援するためのさまざまな制度を用意しています。例えば、受入れ機関向けのガイドラインの提供や、相談窓口の設置などがあります。
今後、特定技能制度はさらに拡充される見込みです。林業分野における外国人材の将来像として、より高度な技能を持つ人材の育成や、管理職への登用なども検討されています。
9. まとめ
特定技能外国人の受入れは、林業分野の人手不足解消と産業発展に大きな可能性を秘めています。企業には、適切な準備と受入れ体制の構築が求められます。長期的視点を持ち、外国人材と共に成長する姿勢が、持続可能な林業経営につながるでしょう。
10. よくある質問
Q: 特定技能外国人の受け入れ可能人数に制限はありますか?
A: 林業分野での受入れ見込み数は設定されていますが、個別の企業に対する厳密な制限はありません。ただし、適切な受入れ計画と体制が求められます。
Q: 特定技能外国人の賃金はどのように設定すべきですか?
A: 日本人と同等以上の賃金を支払う必要があります。地域の最低賃金を上回り、かつ同様の業務に従事する日本人の賃金と同等以上であることが求められます。