外国人労働者の皆さまにとって、日本での就労期間中に支払った年金保険料の取り扱いは重要な関心事です。本記事では、2021年に大きく改正された脱退一時金制度について、申請方法から最新の支給上限まで、詳しく解説していきます
はじめに
脱退一時金とは、日本で働いていた外国人が母国に帰国する際に、支払った年金保険料の一部を返還してもらえる制度です。2021年4月の制度改正により、支給上限期間が3年から5年に延長され、より多くの外国人労働者にとって有益な制度となりました。
この記事は、日本で働く外国人労働者の方々や、人事担当者の皆様に向けて、脱退一時金制度の詳細な情報を提供します。
脱退一時金とは
制度の概要
脱退一時金制度は、厚生年金保険あるいは国民年金に加入していた外国人が、日本から出国後に年金保険料の一部を受け取ることができる制度です。この制度は、短期間の在留で年金受給権を得られない外国人の年金保険料の負担を軽減することを目的としています。
3. 支給要件と金額
脱退一時金は、日本国籍を有しない外国人が日本の公的年金制度から脱退した際に受け取ることができる一時金です。以下に、支給要件と金額の計算方法について詳しく説明します。
支給要件
脱退一時金を受け取るためには、以下の条件を満たす必要があります。
・日本国籍を有していないこと ・公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと ・厚生年金保険または国民年金の加入期間が6か月以上であること ・老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと ・障害年金などの年金を受ける権利を有したことがないこと ・日本国内に住所を有していないこと。 ・最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと |
支給額の計算方法
脱退一時金の支給額は、以下の計算式に基づいて決定されます
国民年金の場合
支給額 = 最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×1/2×支給額計算に用いる数
支給額計算に用いる数は、保険料納付済期間等の月数によって異なります。具体的には、最大60か月(5年)分まで計算されます。
厚生年金の場合
支給額=被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率(保険料率 × 1/2 × 支給率計算に用いる数)
平均標準報酬額は、被保険者期間中の標準報酬月額と標準賞与額を基に計算されます。こちらも最大60か月(5年)分まで支給されます.
具体的な支給額例
例えば、2024年度の場合、国民年金の脱退一時金は以下のようになります。
このように、脱退一時金は日本で働いていた外国人が帰国する際に重要な経済的支援となります。
4. 申請手続きの方法
脱退一時金を申請する際は、以下のステップに従って手続きを進めましょう。
申請資格の確認
脱退一時金を請求できる方は、以下の条件を満たす方です。
日本国籍を持たない外国人であること
年金加入期間が6か月以上10年未満であること
障害年金を受ける権利がないこと
日本国内に住所がないこと
社会保険の資格を喪失してから2年以内
必要書類の準備
申請時に以下の書類を準備してください。
脱退一時金請求書(外国語・日本語が併記された様式)
パスポートの写し(氏名・生年月日・国籍・署名・在留資格が確認できるページ)
日本国内に住所を有しないことを確認できる書類(住民票の除票・パスポートの出国日が確認できるページなど)
受取先の金融機関情報が確認できる書類(金融機関名、支店名、口座番号など)
基礎年金番号通知書または年金手帳
委任状(代理人が手続きを行う場合)
提出先と方法
請求者(本人または代理人)は、必要書類を以下のいずれかに提出します。
日本年金機構本部または各共済組合等
郵送または電子申請が可能
※ 就労以外の目的で来日している場合は、年金事務所や街角の年金相談センターでも提出できます。
提出時期
短期滞在の外国人の場合、日本の住所をなくして出国後2年以内に申請しなければいけません。
書類に不備がなければ、請求書の受付後、約4か月後に支給されます。また、支給決定通知書も同時に送付されます。
注意点
必要書類が不足している、もしくは内容に不備があると、支給までに時間がかかる場合があります。事前に必要な書類をしっかりと準備し、提出先や提出方法を確認した上で申請を行いましょう。
申請のタイミングと方法
申請は以下の手順で行います。
出国前の準備
請求書の入手と必要事項の確認
勤務先での手続き(資格喪失証明書の取得)
出国後の手続き
転出届提出後、日本国内に住所を有しなくなってから請求可能
請求書と必要書類を日本年金機構へ送付
請求期限
日本から出国後2年以内に申請しなければいけません
期限を過ぎると請求権が消滅するため注意が必要
5. 注意点とデメリット
受給に関する注意事項
年金加入期間への影響
脱退一時金を受け取ると、それまでの年金加入期間すべてリセット
将来日本で再就職する可能性がある場合は慎重な検討が必要
社会保障協定との関係
社会保障協定を結んでいる国の方は、母国の年金制度に加入期間を通算できる可能性あり
脱退一時金の請求前に母国の年金制度との関係を確認することを推奨
再入国時の影響
将来的な永住や長期滞在を考えている場合は、脱退一時金の請求を慎重に検討
年金受給権に影響する可能性があります
税金と送金
課税関係
脱退一時金は一時所得として課税対象
20.42%の所得税が源泉徴収されます
送金方法
原則として、本人名義の海外銀行口座への送金
日本の銀行口座への送金は不可
6. 2021年制度改正の詳細
改正のポイント
支給上限期間の延長
3年から5年(60カ月)に延長
2021年4月以降に保険料を納付した期間が対象
改正の背景
特定技能(1号)の在留期間上限が5年であることへの対応
外国人労働者の長期滞在傾向の増加
改正後の変更点
計算方法の変更
支給上限月数が60カ月に増加
平均標準報酬額の計算期間も延長
対象者への影響
長期滞在者の受給額が増加
より多くの保険料納付分が還付対象に
7. まとめ
脱退一時金制度は、外国人労働者の年金保険料負担を軽減する重要な制度です。2021年の制度改正により、支給上限が5年に延長され、より充実した内容となりました。
重要なポイント:
出国後2年以内の請求が必須
必要書類の準備と正確な記入が重要
将来の日本での就労予定がある場合は慎重な検討が必要
8. よくある質問(FAQ)
Q: 脱退一時金はいくらもらえますか?
A:年収の約9%が5年分を上限として支給されます。具体的な金額は、在職中の給与や保険料納付期間によって異なります。
Q: 外国人の年金脱退一時金はいつ支給されますか?
A:請求書の受付から約2~3カ月後に、指定された海外の銀行口座に振り込まれます。
Q: 10年以上加入している場合は受け取れますか?
A:年金受給資格(10年以上の加入期間)がある場合は、脱退一時金を受け取ることができません。この場合は、将来的に年金を受給する権利があります。
Q: 国民年金と厚生年金の両方をもらえますか?
A:はい、それぞれの加入期間に応じて計算され、合算して支給されます。
Q: 帰国後の年金はどうなりますか?
A:脱退一時金を受け取ると、それまでの年金加入期間がすべてリセットになります。将来的に再来日して就労する可能性がある場合は、この点を考慮して請求を検討してください。