1. はじめに
中国のEC市場は世界最大の規模を誇り、その成長は留まることを知りません。特に、アリババグループが運営する天猫(Tmall)は、中国BtoC-EC市場の約6割を占める巨大プラットフォームとして知られています。本記事では、天猫の特徴や参入方法について、詳しく解説していきます。
中国EC市場の現状
世界一の市場規模
対前年比40%増の成長率
モバイルコマース普及率の高さ
2. 天猫(Tmall)の基本情報
天猫の概要
天猫(Tmall)は、2008年にアリババグループが開設したショッピングモール形式のBtoC-ECサイトです。高級志向・本物志向のユーザーニーズに応えるべく、厳格な審査をパスした法人のみが出店できるモールとして運営されています。
天猫の特徴
厳格な審査制度
天猫への出店には、以下の要件が必要です。
中国本土での営業許可証
商標登録証
販売権利証明書
2〜3ヶ月の審査期間
「独身の日」の驚異的な売上
11月11日開催の大規模セール
2023年は2.87兆円の売上記録
世界最大のECセール
3. 天猫と淘宝網の違い
取引形態の違い
天猫と淘宝網は、以下のような明確な違いがあります。
プラットフォーム | 取引形態 | 特徴 | 信頼性 |
天猫(Tmall) | BtoC | 企業から消費者への取引 | 高い |
淘宝網 | CtoC | 個人間取引 | 要注意 |
信頼性と品質の違い
天猫は正規品保証と高い信頼性を特徴としています。
厳格な企業審査
天猫は、出店者がプラットフォームに参入する前に、非常に厳格な企業審査を実施しています。この審査には、企業の法的ステータスや業界における信頼性、過去の取引履歴、税務や財務状態などの詳細な確認が含まれます。これにより、消費者は天猫で販売される商品が、確かな企業から提供されているものであることを確認でき、偽造品や不正商品が市場に出回るリスクを減少させています。企業審査は、天猫が提供する商品の信頼性を保証し、消費者にとって安全なショッピング環境を提供するための重要な手段です。
ブランド保護制度
天猫はブランド保護に非常に力を入れており、著名ブランドや企業との提携を強化しています。ブランド保護制度は、ブランドオーナーが自分の製品や商標が不正に使用されないように監視し、保護するための仕組みです。これにより、正規の製品と偽造品の混在を防ぎ、消費者が安心して本物の商品を購入できる環境を提供します。例えば、ブランドオーナーが自社製品の不正出品を報告した場合、天猫は迅速にその商品を削除し、再発防止策を講じることができます。この制度により、消費者は高い品質の正規品を確実に購入できると同時に、ブランドの価値や評判も守られます。
偽造品の排除
天猫では、偽造品の排除を最重要視しています。偽造品の流通を防ぐために、AI(人工知能)とビッグデータを駆使したシステムが導入されており、商品の出品時に自動的に検査が行われます。これにより、偽造品がプラットフォームに出品されることを未然に防ぎ、万が一偽造品が出品された場合でも、迅速に取り下げる対応をしています。また、消費者が購入した商品に疑問を感じた場合、簡単に返金や返品ができる仕組みも整備されており、偽造品に対する消費者の不安を取り除くための保護策が充実しています。このような取り組みにより、天猫は偽造品に対する高い信頼性を維持しています。
4. 天猫への出店方法
基本要件
出店には以下が必要です。
中国現地法人の設立
営業許可証の取得
商標登録
各種許認可の取得
出店費用
初期費用の内訳
登録料:数十万円
保証金:カテゴリにより異なる
システム利用料
広告宣伝費
5. 天猫国際(Tmall Global)について
特徴と利点
天猫国際(Tmall Global)は、アリババグループが運営する越境ECプラットフォームであり、2013年に設立されました。このプラットフォームは、海外の企業が中国市場に商品を販売するための重要な手段となっています。以下に、天猫国際の主な特徴と利点を詳述します。
越境ECの専門性: 天猫国際は、海外企業が中国国内に法人を設立することなく出店できるため、国際的なビジネス展開が容易です。これにより、企業は複雑な手続きを避けつつ、中国市場へのアクセスを得ることができます。
高い集客力: 天猫国際は、中国のEC市場で約60%のシェアを占めており、圧倒的な集客力を誇ります。これは、特に若い世代の消費者に対して強い影響力を持つことを意味します。
ブランディングの容易さ: プラットフォーム上で直接消費者に販売できるため、代理店を介さずに自社ブランドを強化することが可能です。これにより、企業はブランドイメージを統一しやすくなります。
物流の効率性: 天猫国際では、アリババグループ内の物流会社CaiNiao(菜鳥)を利用することで、迅速かつ効率的な配送が実現されています。特に「天猫日本直送」モデルでは、日本から直接中国へ商品を発送できるため、在庫管理の負担が軽減されます。
多様な出店モデル: 天猫国際には、旗艦店モデルや卸売販売モデルなど、複数の出店形態があります。これにより、中小企業でもテストマーケティングを行いやすくなっています。
消費者信頼度の向上: 天猫国際は、高品質で安全な商品を提供することを重視しており、その結果として消費者からの信頼度が高まっています。特に海外ブランドは、中国市場で高い評価を受けやすい傾向があります。
6. 天猫でのビジネス展開のポイント
プロモーション戦略
KOL(Key Opinion Leader)の活用
KOL(インフルエンサー)は、消費者の購買行動に大きな影響を与える存在です。天猫では、特に中国の人気インフルエンサーや業界専門家と提携することで、製品の信頼性や魅力を高めることができます。KOLを活用する際のポイントは以下の通りです。
ターゲット層の選定: 自社の商品やサービスのターゲット層に最適なKOLを選びます。例えば、若年層向けのファッションやビューティー商品には、SNSで高い影響力を持つ若手インフルエンサーを選び、家庭向けの商品には信頼性の高いママブロガーやライフスタイル系のインフルエンサーを活用するのが効果的です。
レビュー・体験コンテンツの作成: KOLに製品を使ってもらい、その体験を動画や投稿としてシェアしてもらうことで、製品の魅力を視覚的かつ感情的に伝えることができます。これにより消費者は製品の「実際の使用感」や「信頼性」を感じやすくなります。
コラボレーションによる販促活動: KOLとのコラボ限定商品やキャンペーンを行うことで、特別感を演出し、フォロワーの購買意欲を引き出すことができます。
ライブコマース
ライブコマースは中国におけるECの最前線であり、天猫においてもリアルタイムで製品を紹介するライブストリーミングは極めて効果的なプロモーション方法です。ライブコマースの活用には以下のポイントがあります。
インタラクティブな体験の提供: ライブ配信中に視聴者からの質問にリアルタイムで回答したり、コメントを反映させたりすることで、消費者とのエンゲージメントを深めることができます。製品の使用方法や特徴を実演し、視聴者が製品に対する理解を深めることができます。
限定オファーの提供: ライブ中にのみ有効なクーポンや特別割引を提供することで、視聴者に即時の購買を促すことができます。タイムセールや数量限定などの限定感を演出することで、視聴者の購買意欲を高めます。
有名なライブ配信者とのコラボ: 人気のあるライブストリーマーやインフルエンサーとコラボすることで、より多くの視聴者を集め、認知度を広げることができます。
セール時期に合わせた販促
天猫では特定のセールイベント(ダブル11(11月11日)、ダブル12(12月12日)、**618(6月18日)**など)が非常に大きな販促のチャンスです。セール時期に合わせた販促活動は、計画的に実行することで売上を大幅に伸ばすことができます。
事前のプロモーション活動: セール前から製品やキャンペーン情報を告知することで、消費者の購入意欲を高め、セールが始まった瞬間に迅速に売上を伸ばすことができます。SNSやメールマガジン、アプリ内通知を活用して、セール開始前に関心を引きます。
セール限定商品やセット販売: セール期間限定の商品や、複数の商品をセットにしたパッケージ販売を行うことで、消費者に「お得感」を提供し、購入意欲を刺激します。例えば、特別仕様のパッケージや、セール専用デザインの商品などが効果的です。
早期購入特典: セールの開始から短時間内に購入した消費者に対して、特別な割引やギフトを提供することで、早期の購買を促進できます。
マーケティングオートメーション: 購入履歴や検索履歴に基づいて個別にパーソナライズされたオファーを送信することが可能なマーケティングオートメーションツールを
成功のための重要ポイント
天猫(Tmall)で成功を収めるためには、ターゲット層を明確にし、その嗜好や消費行動に合わせた戦略を構築することが欠かせません。特に、**90後(1990年代生まれ)**の世代をメインターゲットにする場合、その特徴や価値観を理解し、適切なアプローチを取ることが重要です。また、現地消費者の嗜好を反映させた製品やサービスの提供、そして適切な価格戦略が成功に繋がります。
90後(1990年代生まれ)をメインターゲットに
90後(90年代生まれ)は、中国のZ世代と呼ばれる若年層の消費者群で、特にオンラインショッピングに馴染みが深く、購買行動や消費意識が非常にデジタル化されています。この世代にターゲットを絞るための重要なポイントは以下の通りです。
デジタルネイティブであること: 90後世代は、インターネットやスマートフォンが日常生活の一部であり、オンラインショッピングやSNSの活用が当たり前です。この世代に対しては、モバイルファーストのアプローチを取り、天猫のアプリやSNSとの連携を重視することが効果的です。特に、ライブコマースやKOLとの連携、そしてSNSを活用したプロモーションが有効です。
個性重視のマーケティング: 90後世代は、自分らしさや個性を大切にする傾向があります。自分だけのユニークなスタイルや価値観を反映できる製品やサービスに魅力を感じやすいため、パーソナライズやカスタマイズ可能な商品の提供が有効です。また、社会的に意識が高く、環境問題や社会貢献に敏感なため、エシカルな製品やサステナビリティを意識したアプローチも重要です。
エンターテインメント性のある体験: 90後世代は、購買行動を単なる買い物ではなく、エンターテインメントとして楽しむ傾向が強いです。ライブコマースやインタラクティブな広告、ゲーム性を取り入れたキャンペーンなど、楽しく参加できるプロモーション活動を通じて消費者の関心を引き、購買意欲を高めることができます。
現地消費者の嗜好理解
天猫で成功するためには、中国の消費者の文化や嗜好を深く理解し、それに基づいた商品展開やマーケティング戦略を取ることが必須です。以下のポイントを押さえると、現地市場に適応したプロモーションが可能となります。
品質重視とブランド志向: 中国の消費者は、品質に非常に敏感です。特に都市部の消費者は、品質の高い製品や信頼できるブランドに対して高い意識を持っています。高品質と高付加価値を訴求することが大切です。また、品質保証や正規品であることをしっかりとアピールすることで、消費者の信頼を得ることができます。
中国文化に即した製品開発: 現地の消費者の嗜好を反映させた製品ラインを展開することが重要です。例えば、中国では色彩やデザインが重要視されることが多く、特にパッケージやデザインの面で中国市場向けにアジャストすることが求められます。また、特定の祝祭日やイベント(例:春節、国慶節など)に合わせたプロモーションや商品提供も有効です。
地域特有のニーズへの対応: 中国は非常に広大な国であり、地域ごとに消費者の嗜好やニーズが異なります。都市部(北京、上海、広州など)と地方都市では、価格感度や求める製品が異なるため、ターゲット地域をしっかりと分析し、地域に応じた戦略を取ることが重要です。例えば、都市部の若者向けには最新のファッションやガジェットを、地方都市では実用性やコストパフォーマンスを重視した製品を提案することが有効です。
適切な価格戦略
価格戦略は、天猫での成功において極めて重要です。90後世代をターゲットにした場合、特に以下のポイントを重視する必要があります。
競争力のある価格設定: 価格に敏感な若年層向けに、コストパフォーマンスの良い商品を提供することが大切です。特に90後世代は、お得感やディスカウントを重視する傾向があるため、価格競争力を確保することが求められます。
プライシング・プレミアム戦略: 高品質な製品やプレミアムなブランドには、高めの価格設定が許容される場合もあります。特に、中国の中高所得層の消費者は、ブランド力や品質を重視するため、プレミアム戦略を採ることも有効です。例えば、品質保証や独自性をアピールすることで、少し高めの価格帯でも消費者に納得感を与えることができます。
バンドル販売とセット割引: 若年層向けには、複数の製品をセットで提供するバンドル販売や、まとめ買い割引を提供することが効果的です。これにより、消費者にとってはお得感を感じやすくなり、購買促進に繋がります。
シーズン毎の価格調整: 中国の消費者はセールやディスカウントに非常に敏感であるため、特定のシーズン(例えばダブル11や618セールなど)に合わせた価格調整や割引を行うことが重要です。これにより、購買を後押しし、売上の最大化を図ることができます。
7. まとめ
天猫(Tmall)は、世界最大級のECプラットフォームであり、中国市場における重要なビジネスチャンスを提供します。出店には厳格な審査が必要ですが、天猫国際を活用すれば、海外企業も中国市場にスムーズに参入することができます。成功するためには、ターゲット層の特性に合わせたプロモーション戦略と、現地消費者の嗜好を理解した商品展開が不可欠です。
8. よくある質問(FAQ)
Q: 天猫(Tmall)とは何ですか?
A: アリババグループが運営する中国最大のBtoC-ECプラットフォームです。
Q: 天猫と淘宝網の違いは何ですか?
A: 天猫はBtoC(企業・消費者間取引)、淘宝網はCtoC(個人間取引)という違いがあります。
Q: 天猫に出店するにはいくら必要ですか?
A: 天猫本体への出店は現地法人が必要で、天猫国際は約300万円の出店費用が必要です。
Q: 天猫国際とは何ですか?
A: 海外企業向けの越境ECプラットフォームで、中国本土に法人がなくても出店可能です。
Q: 天猫に出店している日本企業にはどのような企業がありますか?
A: ユニクロ、無印良品、資生堂、ニトリなどの大手企業が出店しています。